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藻類

2017年12月12日 (火)

ミドリムシ

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今年の夏に宮城県の沼で採取したミドリムシです。
正確にはユーグレナ植物門(Euglenophyta)
ミドリムシ科、ミドリムシ属(Euglena sp.)です。

この写真のミドリムシは細胞内に棒状のパラミロンの結晶を2個持っています。
パラミロンは多糖類の一種で、栄養補助食品としても知られています。

眼点の近くからは鞭毛が伸びていますが、
写真に写すのは難しいです。

眼点の反対側は針状の構造になっています。
また、細胞はわずかにねじれています。

棒状のパラミロンを持ち、細胞がややねじれ、
後端部(眼点の反対側)が針状になっている特徴は
淡水微生物図鑑(月井雄二著)のEuglena tripteris に似ています。

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こちらのミドリムシは東京都内の池で採取したものです。
さきほどの宮城県産の種(Euglena tripteris ?)と異なり、
小さな円盤状のパラミロンが多数あります。
後端部は細くなっていますが、尖ってはいません。

ミドリムシ(Euglena 属)としては一般的な形状なので、
種レベルの分類は難しそうです。

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こちらは新潟県で採取した小型のミドリムシです。
左右の写真で形が違いますが、どちらも同じ個体です。

ミドリムシは鞭毛を使って泳ぐほかに、
ユーグレナ運動という特殊な運動を行います。
ユーグレナ運動は、細胞が細くなったり、太くなったりしながら、
芋虫のように這い回る運動です。
普段は鞭毛で遊泳しているミドリムシが
障害物などに挟まって遊泳できなくなったときに、
ユーグレナ運動が生じます。

ユーグレナ運動を言葉で説明するのは難しいですが、
紙の筒に例えることができます。

週刊誌でも新聞でも良いのですが、
紙をねじって棒のように丸めると細い筒ができます。
このとき、斜めにずらしながら丸めると、紙の筒は長くなります。
これがミドリムシの長く伸びた状態に相当します。

次に、丸めた紙の巻きを緩くしてみます。
そうすると紙の筒は太くなり、短くなります。
これがミドリムシの太くなった状態です。
ただし、実際には右の写真のように複雑に変形します。

ただ、変形したときに細胞内のパラミロンが明らかに邪魔そうなのですが大丈夫なのでしょうか?

2017年11月17日 (金)

シャジクモ(Chara sp.)の観察


シャジクモは普通の水草(被子植物)に見えますが、
シダ、裸子植物、被子植物に見られるような維管束はなく、
花も咲かせません。
陸上植物に比べるとはるかに単純な構造ですが、
藻類のなかでは際だって複雑な構造を持っています。

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茎のように見える構造は主軸で、
節と節の間は節間細胞と呼ばれる非常に長い細胞でできています。
節の部分からは小枝が生じます。
小枝は節の部分から放射状に生じるので、
節から生じる小枝をまとめて輪生枝と呼びます。

上の写真の左側はシャジクモの上部の部分、
右側は付け根の部分です。

シャジクモ目(Charales)、シャジクモ科(Characeae)の代表的な属は
シャジクモ属(Chara)とフラスコモ属(Nitella)ですが、
シャジクモ属は小枝が分岐せず、フラスコモ属は分岐するといった違いがあります。
写真の種はシャジクモ属(Chara sp.)です。
石田精華園さんで購入した田土から発生しました。

直射日光を避けた明るい窓辺の瓶と、ベランダの水槽で栽培しました。

上側の部分を拡大してみます。

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オレンジ、または褐色の果物の実のような構造がありますが、
これはシャジクモの生殖器です。
シャジクモの生殖器は藻類のなかでも最も複雑なもので、
雄性生殖器官と雌性生殖器官の区別があり、
どちらも多細胞でできています。

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これは雄性生殖器官と雌性生殖器官を拡大したものです。
生殖器は節に近い部分の小枝にリング状に生じます。
雌性生殖器官が上側、雄性生殖器官が下側にあります。
シャジクモ属(Chara)は雌性生殖器官が上側、雄性生殖器官ですが、
フラスコモ属(Nitella)は雌性生殖器官が下側、雄性生殖器官が上側に付きます。

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シャジクモ本体から切り離して、詳細に観察した画像です。
少しずつ焦点を変えて撮影した画像です。
上側のオレンジ色の部分が雌性生殖器官(生卵器)です。
雌性生殖器官には卵が入っていて、受精後に卵胞子(接合子)になります。
卵胞子は螺旋状の管細胞に覆われています。

雌性生殖器官の頂点には冠細胞があります。
シャジクモ亜科(シャジクモ属、シラタマモ属、ホシツリモ属)の冠細胞は5個、
フラスコモ亜科(フラスコモ属)では10個有ります。
不明瞭ですが、写真の種(シャジクモ属(Chara sp.))の冠細胞は5個です。

下側の赤い球形の部分は雄性生殖器官(造精器)です。
雄性生殖器官(造精器)は楯細胞、柄細胞、造精糸が球形の構造を作っています。

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こちらは雌性生殖器官(生卵器)だけが並んだ部分です。
雄性生殖器官はシャジクモの頂点に近い部分だけに見られます。
少し根元側には雄性生殖器官がなく、雌性生殖器官(生卵器)だけがあります。
若い雌性生殖器官はオレンジ色です。

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若い雌性生殖器官(生卵器)の詳細な画像です。
雌性生殖器官(生卵器)は小苞と呼ばれる細胞に保護されています。
緑色の細胞で、長さは雌性生殖器官と同程度、
花びら、またはガクのような構造です。

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こちらは、少し根元に近い部分の雌性生殖器官(生卵器)です。
色が濃くなっています。
雌性生殖器官内部の卵胞子が成熟してきているのかもしれません。

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やや根元に近い部分の雌性生殖器官(生卵器)の詳細な画像です。
生卵器自体の大きさに変化はないようです。

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こちらは本体からこぼれ落ちた卵胞子(接合子)です。
卵胞子には螺旋状の構造があります。
種や属によって、卵胞子の形態は異なるようです。

ホシミドロなどの接合子と同じものと思いますが、
シャジクモ類の場合は特別に卵胞子と呼ぶようです。
卵胞子(接合子)は乾燥に耐えられる構造をしています。
実際、今回の試料は乾燥した田土(石田精華園さんで購入)から発生しました。
京都府産の水田が起源です。
石田精華園さんの周辺の水田にはシャジクモが繁茂しているのでしょう。

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こちらは主軸の節の部分から小枝(輪生枝)が生じる部分です。
托葉冠と呼ばれる短いトゲのような細胞が
小枝の根元側に付いているのですが、
この写真では不明瞭です。
というよりも、托葉冠が小さく目立ちません。
主軸には螺旋状の構造があります。
主軸は皮層で覆われているようです。

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主軸の拡大画像です。
主軸の本体は節から節までの間が1個の細胞でできています。
顕微鏡で観察すると、細胞内部の構造が原形質流動により、
高速で移動するのが分かります。
種や属によっては、主軸の表面が皮層で覆われます。
今回の種(シャジクモ属(Chara sp.))には皮層があるようで、
主軸表面に螺旋状の構造が見られます。

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主軸の表面の拡大画像です。
多数の細胞がタイルのように敷き詰められているように見えます。
タイルのような構造が本当に細胞なのか、
細胞表面の構造なのか判断できませんでした。
資料を探しているところです。

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こちらは小枝(輪生枝)です。
小枝(輪生枝)は皮層に覆われていないようで、透明感があります。
種や属によっては、小枝(輪生枝)の表面が皮層で覆われます。
主軸が皮層で覆われ、小枝(輪生枝)には皮層がない種は、
イトシャジクモ(Chara fibrosa)と、その近縁種です。
今回の種はイトシャジクモに特徴が似ているのですが、
托葉冠と苞が短い特徴が、イトシャジクモ(Chara fibrosa)と異なるため、
種レベルの同定は保留としました。

小枝(輪生枝)の先端は、複数のトゲのような細胞があり、
“冠状”となっています。
この構造も分類の役に立つそうです。

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シャジクモの仮根です。
陸上植物のような本物の根ではないという意味で仮根と呼びます。
仮根部に白色の "球状体"を持つ種もあります(シラタマモ、Lamprothamnium succinctum)。

今回のコラムは下記の文献を参考にいたしました。

しゃじくもフィールドガイド
独立行政法人国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 生物資源保存研究推進室 微生物系統保存施設

http://mcc.nies.go.jp/Chara2006/chara_fieldguide.htm

車軸藻の見分け方 | NIES コレクション
http://mcc.nies.go.jp/Chara2006/chara-4.html

植物の上陸作戦=シャジクモの辿った道
坂山 英俊 神戸大学大学院理学研究科

藻類の多様性と系統
バイオディバーシティ・シリーズ
岩槻邦男、馬渡峻輔 監修、千原光雄 編集、裳華房、1999

2017年11月 6日 (月)

ボルボックス(Volvox sp.)の雑学

甲殻類と土壌生物の画像集の更新が終わったので、
最近は藻類のデータ整理を始めました。
去年から今年にかけて撮影した画像です。

 

久しぶりのボルボックス(Volvox sp.)の画像です。


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石田精華園さんで購入した田土から発生しました。
ということは乾いた土の中でもボルボックスは休眠できるのですね。
この土からは他にもシャジクモや、ホウネンエビカイエビが発生しました。

 

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ボルボックスの特徴は緑色の小さな点が集合していることですが、
この点は何なのでしょうか?
拡大してみましょう。

 

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はい、このとおり、緑色の点は個々の細胞です。
日本淡水プランクトン図鑑によれば、
ボルボックスの細胞数は500~20,000だそうです。

 

ボルボックスはこれらの細胞が群体を作っています。
正確には“定数群体”と呼ばれるもので、
生殖細胞が決まった回数だけ分裂して細胞を増やし、群体を作っています。
個々の細胞が適当に分裂して細胞数を増やすのではないところが特徴です。

 

“定数群体”の藻類は、細胞数が2の倍数であることが特徴です。
群体を形成する細胞が同じ回数だけ分裂するので、
細胞数が2の倍数になります。
例えば、クンショウモの細胞数は4, 8,16,32,64であることが多いです。
それぞれ2回分裂、3回分裂、4回分裂、5回分裂、6回分裂でできた群体です。

 

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左は細胞間隔が狭く、右は広くなっています。
細胞の間には橋のような構造がありますが、
右の群体ではこの橋のような構造が長く伸びています。

 

細胞の距離を広げれば群体を大きくできます。
後述するように、ボルボックスは親群体の内部に娘群体を入れているので、
娘群体を複数入れておくには大きな容積が必要です。

 

個々の細胞には他の藻類と同じく葉緑体やピレノイドがあります。


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上の写真は少しずつフォーカスを変えて撮影した画像です。
細胞の中にあるリング状の物体がピレノイドです。
右下の画像でよく見えています。
ピレノイドは藻類の細胞に特徴的な構造です。
二酸化炭素の濃度を高めて、炭素固定を効率的に行うなどの機能があるそうです。

 

ボルボックスの細胞には眼点もあります。

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左右の写真は同じ場所を撮影した画像ですが、
フォーカス位置が異なります。
左の写真のようにフォーカス位置を変えると眼点が見えてきます。
赤~オレンジ色の粒状の構造が眼点です。
ボルボックスは個々の細胞で光を感じています。

 

細胞と細胞の間には寒天質があります。
寒天質は透明ですが、よく観察すると多角形の構造があります。

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この写真はコントラストを高くしたもので、
左の写真をよく見ると細胞の周りに多角形の構造があります。
右の写真は多角形の構造をピンク色の線で上書きしたものです。
日本淡水プランクトン図鑑のVolvox globatorのイラストでは
多角形のイラストが繊細に記載されていて、
“表面から見ると多角形の集まりに見える”との記述もあります。
位相差顕微鏡を用いれば、もっとよく見えるのかもしれません。

 

次にボルボックスを横(断面)から見てみましょう。

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寒天質の皮膜の内側に沿って細胞が並んでいることが分かります。
ボルボックスの細胞は表面に1層あるだけで、
球体の内部には細胞はありません。
(娘細胞の群体はあります。)

 

倍率的にちょっと厳しいですが、
写真をトリミングして個々の細胞を拡大してみました。

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寒天質の表面に近い側に眼点、反対側にピレノイドがあります。
ボルボックスの細胞は、5μm~10μmくらいです。

 

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この写真のボルボックスの中には、やや大きな球状構造が入っています。
これは娘群体(子供の群体)です。

 

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娘群体を拡大した画像です。
群体表面には隙間無く細胞が敷き詰められています。
親群体に見られるような細胞を繋ぐ橋のような構造はありません。

 

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こちらは、もっと小さな娘群体です。
細胞数が少ないです。
群体全体が薄い膜のような構造に包まれています。
これは生殖細胞の細胞膜と思われます。
他の定数群体の藻類でも、例えばイカダモなどでも
親細胞の中で細胞分裂が進みます。

 

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こちらも初期の娘群体を撮影した画像です。
この段階では細胞数を増やすことで群体の大きさが大きくなっていきます。

 

ところで、多くの定数群体の藻類(クンショウモイカダモパンドリナ)は
全ての親細胞の内部で娘群体が作られますが、
ボルボックスでは特定の生殖細胞の中で群体がつくられます。

 

体細胞と生殖細胞を区別することは多細胞化の第一歩かもしれません。
より進化した段階になると、生殖細胞を支援する細胞群が現れます。
次回は、そのような段階のシャジクモを紹介したいと思います。

 

ボルボックスの他の画像は、
ねこのしっぽ内の“ボルボックスの画像集”もご覧ください。