書評

2019年5月12日 (日)

書評:へんなものみっけ! 著者:早良朋氏

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昨日、国立科学博物館の大哺乳類展2を見学してきました!
鎖骨の有無などに関して骨格を比較してきました。
これだけの標本をまとめて見られるのは科博ならではですね。
スタッフの皆様、ありがとうございます。

さて、博物館の漫画といえば“へんなものみっけ!”です。

博物館で働く人々の日常を描いた作品です!
博物館というと色々な生物、物、資料を展示している場所という
イメージが強いですが、研究施設としての側面も大きいです。

いつ、どこに、何かが生息していた(存在していた)ことを
標本や資料として記録に残して
世界中の研究者や後世の研究者が利用できるようにする、
そういったことが博物館の使命だと思います。
単にコレクションを集めているだけじゃないんですよね~。

自然史系の博物館の基本にあるのは自然科学や分類学です。
最近は必要の無い学問扱いされることも多いですが、
そもそも人間にとっては最も大事な学問です。

例えば縄文人などの狩猟採集時代の人々は、
何が食料になって、何が毒かを知らなければ生きていけないわけで
それって分類学の始まりだと思います。

また、試料採取やコレクションも人間の本能と思います。
昔は昆虫採集で本能を満たしていましたが、
今は「ポケモン」ですね。
ポケモンは現代版の昆虫採集な気がします。

さて、話はだいぶ脱線しましたが、
「へんなものみっけ!」には、なりたかった私の理想の人生がありました。

登場人物も魅力的で、キヨス先生をはじめ、海洋生物や植物、
鉱物学などの様々な研究者が登場します。
彼らの楽しいこと、悩んでいること、大事なことに対して
いちいち感情移入してしまいます。
作者の早良朋氏のカバーエリアが非常に広いことに驚きです。

そして忘れてはいけない、薄井君、彼の自分探しも重要なテーマです。
彼の事務能力が私に備わっていたら、
私も研究者として生き残っていたかもしれない・・・。

その他にもポスドク問題なども書かれていて
この本がベストセラーになるような日本なってほしいなあ、と思いました。

個人的には「ツバメの神様」の話が好きです。
中学生のころ河原でシラサギを追い回していたことを思い出しました。

「ねこのしっぽラボ」でも、
たくさんの“いたんだ”を残していきます!

2018年9月 9日 (日)

生態学が語る東日本大震災 ―自然界に何が起きたのか―

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海岸の貝類、多毛類、甲殻類などが東日本大震災によって
どのような影響を受けたのかを解説した本です。
水生生物だけでなく、海岸に生息する植物や昆虫が受けた影響の解説もあります。
海岸県境を干潟、磯、砂浜、砂丘、湿地などに分けて、
個々に議論をしていることも特徴と思います。

この本によって知ったことは、
干潟の生物が津波によって大きな影響を受けた反面、
磯の生物はあまり大きな影響を受けなかったこと。
干潟は津波によって砂や泥ごと生物が流されたり埋められたりしましたが、
磯の生物は波浪に耐えるために強固に固着していたことが
津波の影響が少なかった原因だそうです。

また、地震後の地盤沈下で干潟や磯が干潮時に露出しなくなったことの影響も大きいとのこと。
磯の生物にとって地盤沈下は最も影響が大きな出来事だったそうです。

干潟は津波による撹乱や地盤沈下によって大きな影響を受けました。
しかしながら、どこかに親生物が生き残っていれば、
生物の空白地帯になった場所であっても
幼生の拡散によって速やかに個体数や種数が復元するようでした。
この場合、外来種がいち早く進入することもあるそうですが、
今のところ、そのような事は無さそうでした。

この本を読んで感じたことは、天然の生物は東日本震災の影響から
速やかに自力で復活していることです。
これは松原などのように人為適な環境が壊滅的な被害を受けて
立ち直れないのとは対照的です。
1000年に一度とはいえ、この場所に住む生物の祖先たちは
何度も津波や地震後の地盤沈下の影響を受けてきたはずなので、
比較的スムーズに地震前の状態に復帰するシステムが出来上がっているのかも知れません。
津波を分布域拡大に利用することもあり、
カキなどはカキ礁が壊れたことで分布を広げたそうです。

また、この本の著者たちはある共通のことを懸念しています。
それは、防潮堤の建設などの復興工事によって
再生しつつある生態系が影響を受けるのではないか、ということです。
もちろん、著者たちは防災と復興と環境保全のバランスが大事であることも述べています。
また、本書の最後のほうでは生態系保全を重視した復興工事の実例なども紹介されています。

ねこのしっぽラボは昨年の夏に宮城県の万石浦と牡鹿半島でサンプリングを行いました。
そこで気がついたのですが、真新しい護岸が整備された湾奥の港周辺からは
甲殻類などのベントスがほとんど見つかりませんでした。
夜間のサンプリングでも甲殻類をあまり採取できなかったので、
本当に生物が少ないのだと思います。
反面、古いコンクリートの港や万石浦には豊富な甲殻類相が存在していました。

ただこれは東北沿岸に限ったことではなく、
他の地域でも経験していることです。
たとえば、昨年春の静岡県焼津港での夜間サンプリングでも
甲殻類はまったく採取できませんでした。

現在の東北地方の太平洋岸が特殊なのは
広いエリアで一斉に復興工事が進められていることです。
多くの海洋生物は幼生期をプランクトンとして過ごすので拡散に優れています。
なので、一つのエリアでの生物相が壊滅しても、
他のエリアから幼生が流れつくことで生物相は復活します。
ただ、工事を行うエリアがあまりにも広く、また時期も一致していると、
幼生の供給が追いつかなくなるので生物相の回復に時間がかかるのかも知れません。

とはいえ防災は大事です。
復興工事を批判する気持ちはありません。
環境保全に注力するあまり防災システムに弱点ができたのでは
なんのための復興工事なのかわかりません。
バランスが大事だと、私も思います。
本書でも書かれていますが、
新しく作られた干潟を守るために
防潮堤の位置を数十メートル陸側に移すなどの取り組みに期待しています。
美しく多様性に富んだ生態系と、
防災に強固なシステムの両方を
後世に残したいですね。

生態学が語る東日本大震災 ―自然界に何が起きたのか―
日本生態学会東北地区編 文一総合出版

2017年7月 8日 (土)

“ガタガール”

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小原ヨシツグさんの書かれた“ガタガール”面白かったです。
干潟に甲殻類の採取に行きたくなる漫画です。
ねこのしっぽラボは磯を主な採取ポイントにしているので、
干潟の経験は少ないのですが、干潟にも進出したくなりました。

 

あまりネタばれするのも何なんですが、
印象深いところをコメントします。

 

二巻の第11話の“遭遇”のところで小型甲殻類の夜間サンプリングの話がありました。
お話の中では生物を採取できなかったのですが、
これは実は理由があるかも知れません。

 

汐ちゃんは普段使いよりも目の細かい3mm目の網を用意しましたが、
実はこれでも目が大きすぎると思います。
夜間に泳ぎだすヨコエビやクーマ、アミ、ワレカラといった生物は、
大きいもので長さは数mmから1cm程度になりますが、
何しろ細いので3mm目の網は通過してしまうと思います。
いわゆるプランクトンネットのほうが良かったですね。
金魚用のアミでも代用できると思います。

 

ねこのしっぽラボはストッキングで作ったランクトンネットを使用しています。
プランクトンネットなら1mm程度の貝虫や、カイアシ、ゾエア、メガロパ、
コツブムシやキクイムシも採集できたことでます。
ウオノエなどの寄生性甲殻類の幼生も採取できます。
砂浜が近くにあるような環境ならばスナホリムシやコノハエビが稀に見つかります。

 

あと、干潟に潮が満ちた場所で採取していましたが、
経験的には港湾のような水深の深い場所や、
少なくとも干潮時でも水没している場所のほうが多く採取できるようです。
あと、街灯の近くであれば懐中電灯で海面を照らす必要もないかも、です。

 

そうはいっても本当に何も採取できないこともあるので、
汐ちゃんには何回かトライしていただいて、
良い採取ポイントを見つけてもらいたいです。

 

やっぱり長期連載が必要ですね。
期待しています!