水戸市 沢渡川緑地、フロリダマミズヨコエビ(Crangonyx floridanus)など:2020年1月
正月に水戸市の沢渡川緑地に行きました。
偕楽園の近く、千波湖の上流側に位置する緑地公園です。
ここには人工的な湿地があります。
2012年5月の調査でここには淡水ヨコエビが生息していることがわかっていました。
ただ、成熟した大型の個体が見つからなかったことと(最大で体長2.4mm)、
当時の技術不足が原因で種の同定には至っていませんでした。
なので、今回は大型の成熟個体を捕獲して解剖し、
種レベルの同定を確実にすることにします。
しかし、行ってみると昨年の台風19号(令和元年東日本台風)の影響か、
荒れ果てていました。
木道もこの通り破壊されていました。
以前は木道の上から採取したのですが・・・。
それでも水辺から網を入れてみると、
数は少ないものの淡水ヨコエビを採取できました。
洪水があっても流されていなかったみたいです。
上の2枚の写真は雰囲気が違っているものの同一個体です。
体長7.5mm、大型の雌個体です。
さて、気になる種類ですが、
第1触覚、第3尾肢、尾節板の解剖を行った結果、
フロリダマミズヨコエビ(Crangonyx floridanus)と判明しました。
アメリカ合衆国南東部を原産地とするマミズヨコエビ科(Crangonyctidae)のヨコエビです。
名前に“フロリダ”とある通り、外来種です。
日本における記録は1989 年
千葉県我孫子市と茨城県取手市の県境にある小河川で報告されたのが最初です。
日本固有のヨコエビよりも汚濁や高水温に強いので
競合することなく分布域を拡大しつつあるようです。
水戸市には少なくとも2012年には侵入していたようですね。
8年近く生息しているようなので、定着したといってもよいかもしれません。
こちらは今回採取した中で2番目に大きな個体(体長6.8mm)です。
やはり雌個体のようです。
こちらは体長4.4mmと小型ですが雄個体です。
今回の調査では生きたままの個体も持ち帰って飼育しています。
ヨコエビの生態をあまり知らないので餌や繁殖を観察することが目的ですが、
外来種である以上、死ぬまで面倒を見ることにします。
餌としてはアキアミの干物や、海産ヨコエビ、スナホリムシなど、
甲殻類の死骸が好みのようです。
スナホリムシの死骸が最も食いつきがよかったです。
ただ、甲殻類の殻は固いらしく切断面などから食べていきますね。
煮干しはあまり好みではないみたいです。
むしろ逃げていきます。
次は植物性の餌を与えてみましょう。
1mm以下の個体もいたのですが繁殖していますかね?
さて、沢渡川緑地ではフロリダマミズヨコエビ以外にも
小さな生物が見つかりました。
ミズムシです。
水の中に住んでいる虫なのでミズムシ、そのままですね。
画像中の左側が頭部、右側の画像は腹面です。
ダンゴムシなどと同じく等脚類に属しています。
写真の種はAsellus hilgendorfii Bovallius, 1886 のようです。
腐植分の多い池や、汚濁の進んだ水域からも見つかるようです。
ミズムシ亜目は淡水域だけでなく、海洋にも生息しています。
適応力が強いみたいですね。
オオケンミジンコ(Macrocyclops fascus)です。
その名の通り大型のケンミジンコで体長2.5mmに達するそうです。
写真の個体も糸状肢を含めると2.8mmあります。
同定には受精嚢の形、第4脚内肢末節の棘毛、第1触角先端部の観察が必要でした。
日本淡水プランクトン図鑑によれば、受精嚢の形状は短いキノコ型とありましたが
実際にはキノコの柄の部分は2股になっていました。
よく見れば日本淡水プランクトン図鑑のイラストも2股に描かれています。
ただ、なんとも形容しがたい形なのは確か。
文章での記載は難しいですね。
近縁のカワリオオミジンコ(Macrocyclops albidus)は受精嚢の形状が扁平なので区別可能です。
第4脚内肢末節の棘毛は3本共同じ長さだったので、
このことからもオオケンミジンコ(Macrocyclops fascus)と同定できました。
カワリオオミジンコ(Macrocyclops albidus)は3本の棘毛のうち、一本が短いことが特徴。
オオケンミジンコは第1触角先端部にノコギリの歯状の透明な膜があることも特徴です。
ヒドラです。
ヒドラ科 (Hydraceae) だと思いますが、細かな分類はよくわかりません。
よく伸び縮みする生物です。
伸びた時の体長は4.2mmでした。
右下の写真のように丸くなることもあります。
(4枚とも同一個体です。)
絶えず動いているので写真を撮るのが難しいですね。
ヒドラは淡水産の刺胞動物です。
刺胞動物はイソギンチャク、サンゴ、クラゲなどの仲間です。
触手には刺胞と呼ばれる毒針がありミジンコなどを捕まえて捕食します。
ヨコエビ水槽のなかで数日間生きていましたが、
いつの間にかいなくなっていました。
白鳥でしょうか。
正月とは思えないほど暖かな日でした。
濁った池があったので網を入れてみたのですが、
小さなアメリカザリガニしかいませんでした。
そういえば、アメリカザリガニも外来種ですね。
ザリガニも甲殻類の画像集に含めないといけないですね。
あと、サワガニとカブトエビの写真も撮りたいですね。
今年の目標にしましょう。
参考文献:
日本における外来種フロリダマミズヨコエビ( Crangonyx floridanus Bousfield)の分布の現状
金田彰二・倉西良一・石綿進一・東城幸治・清水高男・平良裕之・佐竹潔
陸水学雑誌(Japanese Journal of Limnology)68: 449- 460(2007)