日記・コラム・つぶやき

2020年5月30日 (土)

ハモリダニ科の1種:2020年5月 川崎市

マサキの葉の表面に赤いダニを見つけました。
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採取時はハダニかと思ったのですが、
顕微鏡で見てみると、どうやらハモリダニ科の1種のようです。
ハモリダニ(Anystis baccarum (Linnaeus))に似ていますが、
見慣れていないので種レベルの断定はやめておきます。

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日本ダニ類図鑑によればハモリダニ(Anystis baccarum (Linnaeus))は捕食生で
植物上を盛んに動き回るそうです。
ハモリダニとは葉守ダニ、アブラムシなどを捕食する益虫とされています。

 

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前体部を拡大しました。
表面がつるつるしているので焦点が何処に合っているのか不明瞭ですが、
眼は2対、眼の前方に長い毛と、短い毛が一対確認できます。
とても分かりにくいので短い毛の根本付近を矢印で示しておきました。

 

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ついでに鋏角を分離して高倍率で観察しました。
鳥の嘴のように見える部分は鋏角可動指で、
鉤状に曲がっています。
この部分を獲物のアブラムシに突き刺すわけですね。
突き刺してから、鋏角可動指を曲げれば獲物を逃がさずにロックできそうです。
さらに2本の鋏角を使って獲物の皮膚に穴を開け、
滲み出てきた体液を吸うのでしょう。
上手くできていますね。
鋏角の構造は日本ダニ類図鑑のハモリダニ(Anystis baccarum (Linnaeus))の記載に一致します。
ただ、“鋏角の背毛は単条で2本”とも書かれているので、
もう少し低倍率で鋏角全体を見ておいた方が良かったです。
この写真からは鋏角背毛が1本だけ見えていますね。

ちなみに針でつついた感触ですが、土壌生のダニよりも柔らかい印象でした。
顎体部を切り取るときに体液がぶしゃ~と出るので解剖は難しいです。

2020年5月17日 (日)

ヨコエビの人道的な殺し方

代表的なヨコエビの紹介記事の途中ですが、
箸休めの話題です。
といってもヨコエビの話ですが。

数年間のことですが、
“甲殻類も痛みを感じるので捕獲、運搬、収容、殺す時には
人道的な方法を取らないといけない”という話がありました。
スイス政府はロブスターを熱湯に放り込む従来の調理法を禁じ、
事前に気絶させてから絶命させることを義務づけているそうですし、
オーストラリア サウスウェールズ州では「魚や甲殻類の人道的な殺し方」の
ガイドラインが存在するそうです。

このガイドラインでは、ロブスターなどのエビ類の場合は下記の3段階で
“神経中枢を破壊”することを推奨しています。

(1)カットしたり、茹でたり、あぶる前に20分は塩水か氷水につけておく
(2)尾と頭の接合部分近くの正中線を切り、頭に向かって切断する。
(3)尾と頭の接合部近く正中線から尾に向かって切断する。

ポイントは前脳・中脳・後脳などの頭部神経節だけででなく、
胸部と腹部の各節の神経節を破壊することです。

認定NPO法人アニマルライツセンタのHPでは下記のように記述しています。

“ロブスターは体の縦の線に走る中枢神経がある。
刺身(生食)やボイル(調理)するには、縦方向に鋭いナイフで切断することにより
これらの神経中枢を破壊しなければならない。”

では、ヨコエビの人道的な殺し方とはどんなものでしょうか?

 

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まずは上のヨコエビ(ヘッピリモクズ属の1種 Allorchestes sp.)を材料にして
“ヨコエビの中枢神経”を見てみましょう。
なお、このヘッピリモクズは今年の1月に茨城県ひたちなか市で採取したもので、
低温状態で持ち帰った後に、冷凍庫で保存しました。
低温で死亡したと思われます。

 

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ヘッピリモクズの胸部神経節を取り出したものです。
おそらく、第5~7胸節に対応しています。
本当は頭部の神経節も見たいのですが、
頭部と第1~2胸節付近の内部構造はぐちゃぐちゃしているので、
神経を取り出せませんでした。

これを見ると球形の神経の塊が3個あって、
それが2本の神経で連結されていることが分かります。
このような構造を“はしご状神経系”と呼びます。
また、神経の塊のことを神経節と呼びます。

はしご状神経系は原始的な甲殻類ほど顕著で、
鰓脚綱では神経節が小さく左右に分離し、
左右の神経節が2本の横走する神経で接続されるので
より“はしご的”になります。
一方、カニなどの派生的な十脚目では神経節が融合し、
“はしご構造”が見えなくなっています。

この写真の神経節は主に第5~7胸脚の運動と感覚を支配しているものと思われます。
歩いたり泳いだりするためには個々の神経節が連携して活動する必要があるので
神経節を繋ぐ必要がありますが、
ヨコエビの“はしご状神経系”では左右2本の神経で接続しています。
人間で言えば脊髄が左右2本あるようなものですね。

一方、今回の解剖では取り出せませんでしたが、
頭部には前脳・中脳・後脳という大きな神経節があって、
それぞれ触覚と複眼を支配しています。

さて、本題です。
ヨコエビの意思(意識)の中枢を素早く破壊することが
“ヨコエビの人道的な殺し方”につながるという事を前提に、
ヨコエビに意思(意識)というものがあるとすれば、
それは何処にあるのでしょう?
水波誠氏の書かれた“昆虫 -驚異の微小脳”中央新書、2006年では、
昆虫の場合には頭部神経節が眼や触覚などの感覚器官からの信号を統合し、
運動の指令を送り出していると、書かれています。
であれば、頭部神経節を破壊すれば意思(意識)は消失するようにも思えます。
(昆虫は甲殻類から派生した生物なので、内部構造はよく似ています)

一方で、甲殻類の“はしご状神経系”のネットワークが全体として
行動決定(意識)を担っているという可能性も考えられそうです。
哺乳類のように脳に情報処理を集積するのではなく、
複数の神経節が連携することで情報処理を分散処理するような考え方です。
例えば、第7胸脚が捕食者に触れたとき、
逃げるかどうかの最初の判断は頭部神経節ではなく、
第7胸節付近の神経節のネットワークが判断(反射)している可能性があります。
人間でも釘を踏んだら足を上げるなどの単純な反射はありますが、
甲殻類の場合は釘を踏んだら、頭部神経節が痛みを感じる前に走り出しかねません。
つまり、痛みを胸部の神経節が感じて行動しているという考え方になります。
(以上は、私見です。)

その様なわけで、オーストラリア サウスウェールズ州の
「魚や甲殻類の人道的な殺し方」のガイドラインでは
全ての神経節を一気に破壊することを推奨しているのだと思います。
実際、ロブスターの場合、頭部神経節を破壊しても動きそうですし。

結論として、ヨコエビに痛みを感じさせる間もなく確実に即死させるためには
全ての神経節を同時に破壊する必要があるわけですが、
潰さない限りそれは不可能なので、やはり今まで通り低温で神経活動を停止させる方が、
人道的と言えるでしょう。

今回のコラムでは多分に私見が入っています。
本格的に勉強したい方は前述した
水波誠著“昆虫 -驚異の微小脳”中央新書、2006年がお勧めです。

コロナウィルスのご時世ですし、この機会に
昆虫や甲殻類が痛みを感じるとしても、そこに意識があるのかとか、
そもそも節足動物に快・不快の感情があるのかとか、
頭を雌に食べられたカマキリの雄は何を考えているのか、
などなど、じっくり考えるのも良いかもしれません。

以上、ヨコエビを即死させるのは難しい、というお話でした。

2020年1月 1日 (水)

2020年、今年も宜しくお願いいたします!

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2020年初の更新です。
まず、昨年の振り返りを。
昨年は“ねこのしっぽ 小さな生物の観察記録”の
藻類、珪藻、土壌生物、甲殻類の画像データベースの更新ができました。
まだヨコエビだけが残っていますが、
今のところ3月くらいに完了予定です。

サンプリングに関しては冬に群馬の観音山、春に伊豆半島、
夏に井の頭公園、昭和記念公園、琵琶湖、秋には房総半島に行きました。
土壌生物、藻類、甲殻類をバランス良く撮影できたと思います。
ワムシや旋毛虫の撮影にチャレンジしたことも成果かな。

反省点も幾つかありますね。
大型のミジンコ類(ノロなど)は凍結保存できない、
土壌生のヨコエビ類を凍結するときは水没させないと乾燥して壊れる、
などなど。

年末には珪藻学会に参加して科学者気分を味わいました。


さて、今年は1月に茨城サンプリング、3月に木更津サンプリング、
9月に北海道道北サンプリングを計画しています。
他にも細々と、どこかに行くかもしれません。

あとはカブトエビの撮影をしたいのですが、
卵を購入して育てるしかないかな・・・。

色々やりたいことはありますが、
2020年、今年も宜しくお願いいたします!




 

2019年12月15日 (日)

日本珪藻学会第39回研究集会(東京)参加報告

11月30日~12月1日に東京学芸大学で開催された日本珪藻学会第39回研究集会(東京)に参加しました。
“ねこのしっぱラボ”のような在野の研究者(顕微鏡写真家?)にとっては、
学会でプロの研究者と話をすることは大切なことです。
最新の研究動向が分かりますし、自分がやっていることを客観視できるようになります。

さて、今回の珪藻学会では合わせて“「ケイソウ展」珪藻、知と美の小宇宙 part II”も開催されました。
珪藻と芸術を融合させた展覧会は東京学芸大学ならではと思います。
珪藻をモチーフにしたランプとか、良かったです。

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なかでも有意義だったのはこれですね!
接眼レンズにデジカメをくっつけて撮影したので、
ちょっと位置がずれて上が欠けていますが、
本来は完全な作品です。
SNSへの掲載OKとのことだったので紹介させて頂きます。

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これは実物の珪藻を並べた“珪藻アート”という作品です。
ミクロワールドサービスの奥 修 氏の作品です。

奥 修 氏というと
珪藻美術館 ちいさな・ちいさな・ガラスの世界 (月刊たくさんのふしぎ2019年06月号)
などの書籍でも知られていますね。

今回のケイソウ展のようすもミクロワールドサービスさんのホームページで紹介されています。

今回は実物の珪藻アートを高性能の顕微鏡で見ることができました。
印象的だったのは珪藻の種類によって色が違うことですね。
形だけではなくて、色も楽しむことができるんですね。

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顕微鏡の設定を変えると全体的な色も変わります。
どういう仕組みなのか良く分からないですが、
LED暗視野照明よりも光量が大きいですね。

今回の珪藻学会は公開シンポジウムも併設されていまして、
奥氏の講演を聞くことができました。
珪藻アートは光学顕微鏡の品質管理から始まったんですね。
顕微鏡の歴史と珪藻は密接に関係していました。

実際、ミクロワールドサービスでは顕微鏡の性能テスト用の
珪藻スライドを販売しています。
昔と違うのは観賞/教育用の美しい標本も販売されていることですね。
このような教材が学校にあったら子供も興味を持つかもしれないですね。

クリスマスが近いですので、
クリスマスツリーの珪藻アートも紹介します。
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こちらは珪藻化石だったかな?
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奥氏と名刺交換もできましたし、
顕微鏡画像テクニックに関して幾つかアドバイスももらえたので有意義でした。
次回の顕微鏡投資の時に活かしましょう!
ところで学会の懇親会って、
名前と業績だけは知っている人たちが初めて顔を合わすので、
なんかオフ会みたいですよね。

そうそう、我が出身研究室のジョルダン研の皆さんも元気そうで何よりでした。


さて、珪藻学会では珪藻土壁材も紹介されていました。
シックハウス対策用の壁材として有名ですね。

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日本ケイソウ土建材株式会社さんの展示です。

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これを壁に塗るわけですね。
上手に塗るのは難しそう!

 

プロが塗るとこんな感じになるんですね。8_20191215000301

珪藻土の原石も展示してありました。

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小分けの珪藻土サンプルもあったのでもらってきました。
処理をして、奇麗なスライドを作りましょう。

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珪藻土といえば七輪ですね。
珪藻土は耐熱性が高く保温性も良いので七輪に使われています。

公開シンポジウムでは昭和化学工業株式会社さんの発表もありました。
珪藻土を加工してろ過材などを作っているそうです。
珪藻は学術、芸術だけでなく、実生活や工業にも関係が深いですね!

最後になりましたが、珪藻集会実行委員長の東京学芸大学 真山茂樹先生、
興味深い学会を取りまとめて頂き、ありがとうございました。

暗くなるまで珪藻に夢中でした!
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2019年1月 3日 (木)

2019年、良い年でありますように

今年もよろしくお願いいたします!

2019

昨年はホームページの更新ができませんでしたが、
画像データは順調にまとまってきています。
今年春に藻類画像デーベースの更新、
秋に土壌生物の更新を計画しています。
甲殻類(主にヨコエビ)の更新は年内にできるかどうか、
一応、今年中の更新を目指します。

昨年のトピックスは、
伊豆大島と男鹿半島に遠征したこと、
三番瀬で干潟のエビ・カニを採取できたこと、
カニのマクロ撮影用のデジタルカメラを導入したこと、
生物顕微鏡に偏光フィルターを組み込んで
石灰質ナノ化石の撮影に成功したこと、
こんなところでしょうか。

さて、今年はどんな年になるでしょうか?
事故と健康にだけは気を付けたいですね。
まずは1月11日に大腸内視鏡検査が待ってます・・・。

2018年8月12日 (日)

昔話:Shionodiscus biporusと博士論文


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何の変哲もない珪藻ですが、
私にとっては思い入れのある種です。
博士課程の学生だった頃に新種記載した化石珪藻で
Shionodiscus biporus (Shiono) Alverson, Kang et Theriotという学名です。
当時はThalassiosira bipora Shionoという名前でした。
深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm)から見つけました。

Thalassiosira trifultaという珪藻の分類に混乱があるかもしれない”
という当時の担当教官のカンにより始まった研究でした。
実際に何がどうということも分からなかったので、
とりあえず光学顕微鏡とSEM(走査型電子顕微鏡)で
色々な年代の試料(深海掘削試料)を観察していきました。
すると、ある試料において光学顕微鏡ではThalassiosira trifultaが見つかるのに、
SEMでは見つからないという壁にあたりました。

Thalassiosira trifultaは殻の中央部に数個の小さな穴が並んでいて、
SEMで細胞の内側方向から観察すると、
その穴は有基突起という1μmよりも小さな構造に繋がっています。
この有基突起と殻の接合部に3個の微細孔があり、
さらに有基突起自体にも3本の支持構造があることが
Thalassiosira trifultaの特徴です。
なお、有基突起を学名でfultoportulaと呼ぶのですが、
3個の(tri)支持構造を持つfultoportula(fulta)というのが
trifultaの学名の由来です。

ちょっと話がそれましたが、Thalassiosira trifultaに特徴的な
3個の穴と3個の支持構造を持つ有基突起が見つからない、
ということが博士論文の最初の壁でした。

逆に変な珪藻も見つかっていました。
その珪藻は4個の微細孔に囲まれた有基突起を1個だけ持っているのですが、
そのとなりに変なスペースがあり、
そこに暗い影がありました。

そして深夜の電子顕微鏡室で何かの拍子にふと思ったのです。
“光学顕微鏡で見つかるThalassiosira trifultaと、
SEMで見つかる【変な珪藻】は同じものなのではないか”
もちろん、Thalassiosira trifultaは間違いなく存在しますので、
この【変な珪藻】は光学顕微鏡ではThalassiosira trifultaに酷似している
別の珪藻ということになります。

ただ、それにしては光学顕微鏡とSEM観察で穴=有基突起の数が異なります。
光学顕微鏡で【変な珪藻】を観察すると必ず2個の穴が見つかるのですが、
SEM見つかる有基突起の数は1個です。
この矛盾を突破する鍵が有基突起の隣にある変な暗い影でした、
暗い影は内部に空洞があることを示しています。
つまり、【変な珪藻】は2個の穴を持っているが、
その内の1個だけが有基突起に繋がっていて、
もう1個の穴は塞がれている、というアイデアが浮かびました、

このことは後々、色々な方法で証明したのですが、
このような特徴の珪藻が存在しなかったので、
新種記載することになりました。
話が長くなりましたが、
これがThalassiosira biporaです。
biporaという学名は2個(bi)の穴(pora)に由来します。
学名はラテン語なので英語とはちょっとスペルが違います。

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これはShionodiscus biporus(= Thalassiosira bipora)の殻の中央部を拡大した画像です。
中央部に2個の穴がありますが、
右側【F】が有基突起で、左側【O】が塞がっている穴(occluded areola)です。
この2個の穴の違いは慣れると光学顕微鏡でも識別できます。
さらに、少し離れたところに唇状突起【R】という別の構造があるのですが、
必ず唇状突起【R】→塞がっている穴(occluded areola)【O】→有基突起【F】という順番に並びます。

さて、Thalassiosira biporaを新種記載できたことで
一気に研究は加速しました。
(以下の文章はややこしいので流し読みしてください)
Thalassiosira biporaに似た種を複数記載していたのですが、
その中に、本来塞がっているoccluded areolaに小さな穴が開いている種が見つかりました。
さらに時代が古くなると、この穴が大きくなることも分かりました。
このことは起源種から【小さな穴が開いているoccluded areolaを持つ種】を経て、
Thalassiosira biporaが進化したことを示しています。

ではThalassiosira trifultaはどうなったかというと、
T. biporaの全盛期(500万年間~350万年間)にはT. trifultaは誕生していないことがわかりました。
実はT. trifultaは中新世と鮮新世の境界を決める年代指標種のひとつだったですが、
中新世と鮮新世の境界頃にはT. trifultaは生まれておらず、
そこには生まれたてのT. biporaがいたのです。
T. trifultaT. biporaが混同されていたので当然のことです。
つまり担当教官のカンは当たりました。
ただ、起源種は一緒なので遠い昔に分かれた親戚の間柄であることも分かりました。
起源種とT. trifultaの中間の特徴を持つ種(T. praeoestrupii)も存在していました。
起源種もたった一つの種であることもわかり、鮮新世初期の百万年ほどの間(570万年間~480万年間)に、
爆発的に種数を増やしていたこともわかりました。

博士論文ではT. biporaT. trifultaの仲間たちが起源種からどのように進化したのかを議論しました。
このグループの種にとって条件の良いときに変異が大きくなり、
条件が厳しくなったときに変異とのところどころが断絶して多数の種が生まれる、
というイメージです。
実際の博士論文では、別の珪藻グループの進化過程との比較も行いました。
論文も複数かけたので、割とすんなり博士論文は通りました。

ところが、就職が難航しました。
あまりにも古典的で地味な基礎研究だったので、
他の研究への波及効果もなく、
流行の研究対象でもなく、
当時進み始めたIODPにも絡むことができす、
この研究を武器に就職はできませんでした。
結局は別分野の研究テーマでポスドクになり、
一般企業に就職することになりました。
当時は、珪藻の進化の研究なんて何の役にも立たないと言われて落ち込むこともありましたが、
今となっては、この研究ができて良かった、と思います。
財政事情もありますから、将来的に発展や経済効果が見込めるような研究でないと
予算獲得は難しいでしょう。
そのような中で地味な基礎研究に没頭できたことは幸せなことです。

この話には後日談があります。
日本では評判の良くなかった研究ですが、
海外ではそれなりに評価されたようでした。
というのも海外の研究者によってThalassiosira属から
T. biporaT. trifultaの仲間たちが分離されたときに、
新しい属名に私の苗字が使われました。
私が珪藻研究の世界からある日突然消えたので、
もしかしたら“Shionoが死んだ”、と思って謹呈したのかも知れないです。

折角なのでShionodiscus biporusのほかの写真も載せておきます。
最初の写真と同じく、昔の深海掘削計画(DSDP580-16-2_83-84cm)の試料です。
写真をいっぱい並べて共通の特徴を抽出するのが私の研究スタイルでした。

2im180707_dsdp580162_8384cm_shionod

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm) 
① 直径:28.5μm
② 胞紋密度
    中心域:6/10μm、周辺域:14/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:3、長さ:6.4μm
中心域の2個の細孔構造のうち、右側は有基突起、
左はoccluded areola。

3im180707_dsdp580162_8384cm_shionod

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm) 
① 直径:45μm
② 胞紋密度
    中心域:5/10μm、周辺域:10~12/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:4、長さ:4.4μm
中心域の2個の細孔構造のうち、右側は有基突起、
左はoccluded areola。
中心域の左側に唇状突起がある。

4im180707_dsdp580162_8384cm_shionod

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm) 
① 直径:40μm
② 胞紋密度
    中心域:5~6/10μm、周辺域:12/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:3、長さ:6.3μm
中心域の2個の細孔構造のうち、左側は有基突起、
右はoccluded areola。
中心域の右側に唇状突起がある。

5im180707_dsdp580162_8384cm_shionod

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm) 
① 直径:46.3μm
② 胞紋密度
    中心域:5~6/10μm、周辺域:12/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:6、長さ:14μm
中心域の2個の細孔構造のうち、左側は有基突起、
右はoccluded areola。
中心域の右側に唇状突起がある。

こちらは陸上の露頭(崖)で採取したShionodiscus biporusです。

6im180624__shionodiscus1_x1k_2560_2

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :鮮新統 名洗層(千葉県) 
① 直径:30μm
② 胞紋密度
    中心域:5~6/10μm、周辺域:12~13/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:3、長さ:6.8μm
典型的なShionodiscus biporus
中心域の2個の細孔構造のうち、右下側は有基突起、
左上側はoccluded areola。
中心域から少し左上側に離れたところに唇状突起がある。

2018年7月 9日 (月)

カニとガタガール ~OLYMPUS Tough TG-5テスト撮影レポート~

少し間が開いてしまいましたが、
この間にパソコンが壊れていました。
いつものようにデータ整理中に突然ブラックアウトしてフシュ~と落ちてしまいました。
2年しかたってないのに。
ノートパソコンだと、この場合マザーボードごと交換の必要があるようで、
修理代金もそこそこすることから買い換えを決断しました。

こんどのPCはちゃんと保険に入っておこう。。

ちなみに顕微鏡のデータは普段から外付けハードディスクに入れて
作業しているので全て無事でした。

さて、ノートパソコンを買ったついでに
前々から購入検討していたコンパクトデジタルカメラを買いました。

というのも、2cmより大きい生物を撮影するときは
これまでは実体顕微鏡で複数視野撮影し、
つなぎ合わせるという面倒な作業を行っていたのです。

なので、マクロ撮影が得意なコンパクトデジタルカメラがほしかったのです。
一眼レフカメラを使うほどのスキルもないので、
ネットの評判を元に購入したのが OLYMPUS Tough TG-5 です。

さっそく、ゴールデンウィークに三番瀬で採取したヤマトオサガニ(Macrophthalmus japonicus)のアルコール標本でテスト撮影しました。

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期待通りの画像です。
これなら画像データベース用に使えます。

12__02

これは今まで使用していたFUJIFILM FinePix A800の画像です。
スタンドを使用したこともあって、手ぶれなく撮影できていて、
焦点深度も問題ないのですが解像度が劣ります。
ちょっとザラッとした感じもします。
これだと実体顕微鏡のつなぎ写真の代替には厳しいですね。

13__03

こちらはTG-5をスタンドに取り付けて撮影している状態です。
マクロ撮影は手ぶれが大敵ですのでスタンドや三脚はあったほうがよいですね。

14__

こちらは室内照明だけで撮影した画像です。
TG-5には深度合成モードが付いているので、これを利用しています。

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深度合成モードをしないで撮影するとこんな感じです。
焦点深度が意外に浅いですね。
深度合成モードは必須の機能だとわかりました。

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こちらは3月に伊豆大島で採取したヒライソガニ(Gaetice depressus )です。
この大きさのものが1度の作業で撮影できるのは嬉しい。
深度合成モードも上手く機能しています。

22__

こちらは深度合成モードを使用しないで撮影した画像。
簡単に深度合成できる機能があって良かったです。

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こちらは三番瀬で採取したコメツキガニ(Scopimera globosa)です。
この大きさになると実体顕微鏡でも一回で撮影可能ですが、
焦点深度のことを考えると、どちらも撮っておいたほうが良さそうです。
照明の当て方に改善の余地がありますが立体的に撮れていると思います。

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カニにくっついて来てしまったヨコエビも撮影してみました。
顕微鏡を使わずにヨコエビの写真が撮れるとは驚きですね。
カメラをヨコエビに近づけるなどすれば、もっと綺麗な写真になるとは思いますが、
ヨコエビの写真は実体顕微鏡で撮影するので、これはこれでOKです。

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次に乾き物のテスト撮影を行ってみます。
サンプルはガタガール1巻です。

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表紙はこんな感じで綺麗に撮れます。
汐ちゃんの持っているヤマトオサガニのハサミに接写してみます。

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こんな感じで印刷のドットもはっきりわかります。
周辺に収差があるようですが、トリミングして中央部分だけを使えば問題ないでしょう。

ちなみに「ガタガール sp.~阿比留中生物部活動レポート~」第1巻は7月9日発売です。
発注済みなので明日には届くかな。

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こちらはOLYMPUS Tough TG-5で撮影したNikon ECLIPSE E55iです。
この顕微鏡は購入してから15年くらいですが、まだまだ現役ですね。

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こちらが実体顕微鏡 Nikon SMZ745T です。
ステージに乗っているのは暗視野照明装置です。
さきほどのガタガール表紙のヤマトオサガニのハサミの画像は、
暗視野照明装置を使用しています。

さて、良いカメラが手に入ったので大きなカニの写真も撮っていきましょう。
フィールドでの生態写真も撮れるかな?

2018年4月10日 (火)

モンストリラについての問い合わせの返信

メールでモンストリラの問い合わせを頂いたのですが、
メールで返信してもエラーが起きてしまうのでブログで回答します。
電話は苦手なものですみません。

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モンストリラを昼間に採取した経験は2例しかないので、
基本的には夜行性と思われます。
経験上、日が落ちてから2~3時間程度の間に採取できることが多いです。
懐中電灯で海面を照らし、集まってきた夜行性プランクトンを採取すると
モンストリラも入っています。

潮の満ち引きにはあまり関係がないようです。
宮城県から神奈川県までの太平洋沿岸で採取に成功しています。
新潟県では数回サンプリングを行っていますが採取できていません。
ただし、北海道の日本海側の岩内では見つかっています。
神奈川以西、新潟県以西では採取自体を行っていないので不明です。
季節性はあまり感じられません。
直近では、先月、伊豆大島の波浮港で採取しました。

地味な体色のモンストリラは太平洋沿岸に広く見られますが、
緑色や黄色の派手な色の種は神奈川県三浦市城ケ島や、
千葉県房総半島南房総市など黒潮沿岸域で見つかりました。

プランクトンネットに入ってくる頻度は多いものの、
個体数はあまり多くありません。
少なくともプランクトンネットは必須と思います。
外洋に面した港湾での採取が多いです。

夜間の磯は危険があるので、磯では採取していません。
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2018年2月26日 (月)

アメーバ

データ整理をしていたら
アメーバの写真がありました。
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ねこのしっぽラボでは、これまでに
微細藻類、珪藻、珪藻化石、甲殻類、土壌生物などの
画像カタログを作ってきましたが、
いつかは動物プランクトンもやらないとですね。

短時間露出で動きの速い旋毛虫でも
対応できるシステムがあると良いかな。

2018年2月18日 (日)

クマムシ(緩歩動物門)を見つけました。

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アパートの中庭からクマムシ(緩歩動物門)を見つけました。
クマムシの採取方法は簡単で、
コケを水に入れてピンセットでほぐしていくと見つかります。
水道水のカルキが強いと死んでしまうかもしれないので、
くみ置きの水が良いかもしれません。

写真のクマムシは横から見たところで、
少しずつフォーカスを変えながら撮影しました。
大きさは0.2mmくらいなので肉眼で見るのは難しいです。
顕微鏡では4対の脚と、その先の爪も観察できます。

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こちらの写真は同じ場所で採取したクマムシを
上から見た画像です。
側毛と呼ばれる長い毛と、背甲板があるので、
ヨロイトゲクマムシ科であることが分かります。

背甲板の形状で属レベルの分類ができるのですが、
今回は初めてなのでヨロイクマムシ科の1種としておきます。