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2018年10月21日 (日)

ヒメハマトビムシ種群(Platorchestia pacifica)の解剖:秋田県2018年8月

「ねこのしっぽ -小さな生物の観察記録-」のヨコエビ画像集
ヒメハマトビムシ(Platorchestia platensis)という種を掲載していますが、
日本産のヒメハマトビムシに対し、
Platorchestia platensisという種名を使うのは不適切のようです。
というのも、そもそもPlatorchestia platensisはアジアには存在しないとのことです。

では、日本産のヒメハマトビムシの種名(学名)は何なのか、
という問題が起きますが、
現状、Platorchestia joiが本命のようです。
ただし、他にもP. pacificaP. parapacificaなどの種も
ヒメハマトビムシとされてきたようなので一筋縄にはいかないようです。
この辺りの研究史はかなり複雑ですが、
H. Ogawa氏のヨコエビがえし、ハマトビムシ入門(9月度活動報告)
詳しくまとめられているのでこちらをご参照ください。

さて、前述したヒメハマトビムシのページは
広義のヒメハマトビムシ種群(Platorchestia spp.)に修正するのが妥当として、
それだけではすっきりしないので、
新たに男鹿半島で採取したヒメハマトビムシを材料に、
日本産土壌動物 分類のための図解検索【第二版】青木淳一編著と
H. Ogawa氏のヨコエビがえし、ハマトビムシ入門(9月度活動報告)を参考に
細かく同定していきたいと思います。

1_im180821__16_x1_25601920_2mm

まず全体像です。
この個体は男鹿半島南岸の鵜ノ崎海岸で採取した個体で、
比較的大型の個体です。

2_im180821__16__x2_25601920_1mm

頭部の画像です。
喉部は平坦です。
この個体は既にヒメハマトビムシ種群と同定しているので、
あまり意味はないですが、
「喉部が緩く突出する」ホソハマトビムシ属(Paciforchestia属)と区別できます。
(日本産土壌動物参照)
ついでに、第1胸脚触角の先端が柄部第5節の中央に達していないことも分かります。
この辺りの形質はオカトビムシ系の分類に必要なようです。

3_im180821__16_1_x40_25601920_500m

第1触角です。
柄部3節、鞭部6節です。
ハマトビムシ科は第1触角が短いことが特徴です。
昆虫もそうですが、陸上生活を行うには2対の触角は邪魔なのかもしれませんね。

4_im180821__16_2_x3_25601920_1mm

第2触角です。
柄部3節、鞭部13または14節です。

5_im180821__16__x40_25601920_200m

分類にあまり必要性がない部位ですが、
顎脚です。

6_im180821__16_11_x40_25601920_500m
第1胸脚です。
特徴的な形態ですね。

7_im180821__16_21_x40_25601920_500m

第2胸脚です。
ここが最大のポイントです。
掌縁部に2個の突出があります。
ニホンヒメハマトビムシ(Platorchestia pachypus)と区別する上で大事な形質です。
といっても、未成熟個体では2個の突出が不明瞭なので安定的な形質ではないかも。
さらに、メインテーマのPlatorchestia joiP. pacificaP. parapacificaについてですが、
第2咬脚前節下縁に剛毛を欠くことからP. joiは除外できます。
(ハマトビムシ入門(9月度活動報告)参照)
狭義のヒメハマトビムシ(P. joi)ではないということです。

8_im180821__16_31_x5_25601920_500m
第3胸脚です。
前節と腕節の長さを見比べます。
前節が腕節よりも明らかに長ければP. joi
ほぼ同じ長さであればP. pacificaP. parapacificaです。
今回は見た目には前節の方が長いように見えるのですが、
実際に計ってみると前節が0.491μm、腕節が0.485μmで、
小数点第3桁を丸めると同じ0.49μmになってしまうので、
ほぼ同長と言って良いのではないでしょうか。
といっても、実際に間違いなくP. joiという個体を比較検討してみないと、
どこまでを同じ、あるいは違うと言ってよいのか
判断できないと思います。
あとは、前節と腕節は太さが違うので目の錯覚も起きそうです。
ちゃんと計らないと難しいですね。

9_im180821__16_42_x5_25601920_500m

第4胸脚です。
あまり必要性のない部位です。
今回気がついたのですが、ハマトビムシは第3胸脚と第4胸脚の長さが異なるのですね。
ヨコエビの多くは第3胸脚と第4胸脚が区別できないほど似ているので、
派生的な形態といえるかもしれません。

10_im180821__16_52_x5_25601920_500m

第5胸脚です。
あまり必要性のない部位です。

11_im180821__16_61_x3_25601920_1mm

第6胸脚です。
第6胸脚自体には見所はないのですが、
基節板はちょっとしたポイントです。

12_im180821__16_6_x40_25601920_200m

こちらは第6胸脚の基節板です。
ヒメハマトビムシ属は第6胸脚の基節板後葉の前下縁が直角、またはここに突起があります。
少々分かりにくいですが写真中央下部の丸い角のことです。
角は丸いですが、前縁と下縁が直角に交わっています。

13_im180821__16_72_x3_25601920_1mm

第7胸脚です。
あまり必要性のない部位です。

14_im180821__16_11_x40_25601920_500

左右の第1腹肢です。
ここ以降、今回の核心の分類学的に深い部分に入ります。

15_im180821__16_21_x40_25601920_500

第2腹肢です。
第2腹脚柄部縁部の剛毛数は9本です。
P. pacificaは3本、P. parapacificaは7本とのことなので、
P. parapacificaにより近いでしょうか。
第2胸脚の形態から除外しましたがP. joiは13本だそう。
きっちり数が合わないのはモヤモヤしますが、
おそらく成長に伴って数が変化するのではないでしょうか?

16_im180821__16_22_x40_25601920_500

もう一本の第2腹肢です。
第2腹脚柄部縁部の剛毛数は9本です。
左右の数は安定しています。

17_im180821__16_31_x40_25601920_500

第3腹肢です。
第3腹脚柄部縁部の剛毛数は10本です。

18_im180821__16_31_x100_25601920__2

第3腹肢にはもう一列の棘があって、
こちらは識別が難しいのですがおそらく6本です。

19_im180821__16_32_x40_25601920_500

もう1本の第3腹肢です。
第3腹脚柄部縁部の剛毛数は11本です。

20_im180821__16_32_x100_25601920_20

もう一列の棘です。
識別が難しいのですが6本です。
したがって、第3腹肢の棘は11本と6本の2列ということになります。
P. pacificaが9本と6本、
P. parapacificaが9本と5本とのことなので、
どちらとも判別できないです。
あえていえば、P. joiの11本と7本が一番近いのですが・・・。

21_im180821__16_1_x40_25601920_500m
気を取り直して第1尾肢です。
今回はあまり重要ではないですが、
オカトビムシ系の分類には必要な部分です。
側端棘の長さを見ます。

22_im180821__16_2_x40_25601920_500m
第2尾肢です。
ホソハマトビムシの種の同定には必要な部分ですが、
今回はあまり重要ではありません。
縁棘の本数を見たりします。

23_im180821__16_3_x40_25601920_200m

第3尾肢です。
オオハマトビムシとホッカイハマトビムシの識別には重要ですが、
今回はあまり重要ではありません。
下縁に棘があるか、ないかを見ます。

24_im180821__16__x40_25601920_200m
さて最後のポイント、尾節板です。
ここの棘の本数をみるのですが、
これはかなり難しいのではないのでは・・・?
この部分を綺麗に取り外すのは難しいですし、
必要倍率も微妙ですよね。

25_im180821__16__x100_25601920_200m

というわけで40倍では難しそうなので100倍で検鏡します。
ただ焦点深度が浅くなるので複数写真を見比べます。
とりあえず棘の本数は7本で間違いないようです。
また、頭部側に2本の棘が隣接して配置されています。
この特徴はP. pacificaに類似しますね。

P. parapacificaは頭部側に3本の棘が隣接して配置され、
合計本数は10本なので大分違いますよね。

ちなみに、P. joiは頭部側に2本の棘が隣接して配置され、
合計本数は8本です。

さて、まとめです。
どの形質を重要視するかによって結論が変わると思うのですが、
第2胸脚の棘の有無はデジタルなので、
これを最優先にしてみます。
すると、P. joiが除外されます。

第3胸脚は判断に迷ったので除外します。
ただ、前節と腕節がほぼ同長とすれば、
第2胸脚の結果と矛盾しません(P. joiが除外されます)。

次に、腹肢の棘の本数ですが、
きっちり合うものがないのでなんとも言えません。
第2腹肢に関してはP. parapacificaが最も近いです。

尾節板に関してはP. pacificaに特徴が一致します。

尾節板と腹肢のどちらを重要視するかで
P. parapacifica or P. pacificaが変化するのですが、
今回は尾節板に軍配を上げたいと思います。

ということで、P. pacificaとして同定します。

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