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2018年9月 9日 (日)

生態学が語る東日本大震災 ―自然界に何が起きたのか―

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海岸の貝類、多毛類、甲殻類などが東日本大震災によって
どのような影響を受けたのかを解説した本です。
水生生物だけでなく、海岸に生息する植物や昆虫が受けた影響の解説もあります。
海岸県境を干潟、磯、砂浜、砂丘、湿地などに分けて、
個々に議論をしていることも特徴と思います。

この本によって知ったことは、
干潟の生物が津波によって大きな影響を受けた反面、
磯の生物はあまり大きな影響を受けなかったこと。
干潟は津波によって砂や泥ごと生物が流されたり埋められたりしましたが、
磯の生物は波浪に耐えるために強固に固着していたことが
津波の影響が少なかった原因だそうです。

また、地震後の地盤沈下で干潟や磯が干潮時に露出しなくなったことの影響も大きいとのこと。
磯の生物にとって地盤沈下は最も影響が大きな出来事だったそうです。

干潟は津波による撹乱や地盤沈下によって大きな影響を受けました。
しかしながら、どこかに親生物が生き残っていれば、
生物の空白地帯になった場所であっても
幼生の拡散によって速やかに個体数や種数が復元するようでした。
この場合、外来種がいち早く進入することもあるそうですが、
今のところ、そのような事は無さそうでした。

この本を読んで感じたことは、天然の生物は東日本震災の影響から
速やかに自力で復活していることです。
これは松原などのように人為適な環境が壊滅的な被害を受けて
立ち直れないのとは対照的です。
1000年に一度とはいえ、この場所に住む生物の祖先たちは
何度も津波や地震後の地盤沈下の影響を受けてきたはずなので、
比較的スムーズに地震前の状態に復帰するシステムが出来上がっているのかも知れません。
津波を分布域拡大に利用することもあり、
カキなどはカキ礁が壊れたことで分布を広げたそうです。

また、この本の著者たちはある共通のことを懸念しています。
それは、防潮堤の建設などの復興工事によって
再生しつつある生態系が影響を受けるのではないか、ということです。
もちろん、著者たちは防災と復興と環境保全のバランスが大事であることも述べています。
また、本書の最後のほうでは生態系保全を重視した復興工事の実例なども紹介されています。

ねこのしっぽラボは昨年の夏に宮城県の万石浦と牡鹿半島でサンプリングを行いました。
そこで気がついたのですが、真新しい護岸が整備された湾奥の港周辺からは
甲殻類などのベントスがほとんど見つかりませんでした。
夜間のサンプリングでも甲殻類をあまり採取できなかったので、
本当に生物が少ないのだと思います。
反面、古いコンクリートの港や万石浦には豊富な甲殻類相が存在していました。

ただこれは東北沿岸に限ったことではなく、
他の地域でも経験していることです。
たとえば、昨年春の静岡県焼津港での夜間サンプリングでも
甲殻類はまったく採取できませんでした。

現在の東北地方の太平洋岸が特殊なのは
広いエリアで一斉に復興工事が進められていることです。
多くの海洋生物は幼生期をプランクトンとして過ごすので拡散に優れています。
なので、一つのエリアでの生物相が壊滅しても、
他のエリアから幼生が流れつくことで生物相は復活します。
ただ、工事を行うエリアがあまりにも広く、また時期も一致していると、
幼生の供給が追いつかなくなるので生物相の回復に時間がかかるのかも知れません。

とはいえ防災は大事です。
復興工事を批判する気持ちはありません。
環境保全に注力するあまり防災システムに弱点ができたのでは
なんのための復興工事なのかわかりません。
バランスが大事だと、私も思います。
本書でも書かれていますが、
新しく作られた干潟を守るために
防潮堤の位置を数十メートル陸側に移すなどの取り組みに期待しています。
美しく多様性に富んだ生態系と、
防災に強固なシステムの両方を
後世に残したいですね。

生態学が語る東日本大震災 ―自然界に何が起きたのか―
日本生態学会東北地区編 文一総合出版

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