トゲダニ亜目 ホコダニ科 ホコダニ属(Holaspina属) 茨城県2018年1月
このダニも今年の正月に茨城県で採取しました。
土壌中のトゲダニは主にセンチュウやトビムシを補食しています。
ハエの卵や幼虫、他のダニを補食するものもいるそうですが、
基本的に人間生活とは無関係な生物です。
トゲダニはどれも黄色や茶褐色で外見上は良く似ています。
トゲダニだ、ということはすぐ分かるのですが、
それ以上の分類はなかなか簡単ではありません。
写真のダニは外見上、ホコダニ科に似ているので、
ホコダニ科にあたりをつけて同定を進めていきます。
分類には“日本産土壌動物 分類のための図解検索 【第2版】 青木淳一編著”
を使用しました。
背面を拡大した画像です。
背中には背板と呼ばれる硬い殻があります。
背板の最前方にある毛がj1で、
その斜め下にある毛がz1です。
ホコダニ科にはz1を欠くものがいるので、
最初の同定に役に立ちます。
カマゲホコダニ属(Gamasholaspis属)、ホコダニモドキ属(Euparholaspulus属)、
はz1を欠くとされています(日本産土壌動物)。
ヘラゲホコダニ属(Holaspulus属)、コシビロホコダニ属(Naparholaspis属)、
ダルマホコダニ属(Proparholaspulus属)、ホコダニ属(Holaspina属)、
ヤリゲホコダニ属(Parholaspis属)
はj1とz1を持ちます。
写真の種はz1があるので、カマゲホコダニ属と
ホコダニモドキ属は除外できます。
ただ、z1は非常に弱く、
脚などを整える過程で倒れてしまったりして、
見えなくなってしまいます。
なので、最近は脚などを整える前にj1、z1を撮影しています。
以前の記事の“ホコダニ科(Parholaspididae) カマゲホコダニ属?2017年3月焼津市”
のホコダニはz1が見えないためにカマゲホコダニ属?としていますが、
実はz1が倒れてしまっていたために
別の属と誤認している可能性があります。
今回は慎重に行きましょう。
次は腹面を観察します。
腹側には腹肛板、生殖板、胸板の3枚の板があります。
写真に板の名前を書き込みました。
わかりますか?
トゲダニの分類では、この3つの板が融合しているか、
あるいは分離しているかが非常に大事です。
写真の種は腹肛板、生殖板、胸板が分離しています。
さらに言えば、この3つの板の両脇にある周気管板とも分離しています。
この特徴を持つのはホコダニ属(Holaspina属)と
ヤリゲホコダニ属(Parholaspis属)です。
生殖板を中心に拡大した画像です。
右側が胸板、左側が腹肛板になります。
胸板と生殖板の間には後胸板と呼ばれる小さな板があります。
後胸板です。
直径10μm以下ですね。
低倍率では確認が難しいかも知れません。
ホコダニモドキ属(Euparholaspulus属)は後胸板を持たないそうです
(日本産土壌動物)。
こんどは腹面の側面を観察します。
大きな丸い構造は脚の付け根です。
右から第2脚、第3脚、第4脚です。
第3脚、第4脚の間の側面に気門があります。
ホコダニ科の気門は単純な円形です。
次に鋏角です。
鋏角は動く“可動指”と動かない“固定指”でできています。
可動指の付け根に毛束と呼ばれる構造があります。
ホコダニ科の毛束は羽毛状です。
羽毛状の毛束を持つのはホコダニ科とハエダニ科ですが、
ハエダニ科は湾曲した気門を持つので、
気門を見ればホコダニ科とハエダニ科を区別できます。
こんどは顎体突起です。
トゲダニの頭部というか、口器の付け根というか、
説明が難しい部分です。
はじめは顎体突起がどこのことなのか分からず苦労しました。
写真を撮っても分かりにくいのですが、
トゲダニ類の分類にとっては重要な部分です。
分かりにくいので別の個体で再撮影しました。
矢印の部分に3つの突起があります。
拡大して撮影した画像です。
焦点深度が浅くなったので逆に分かりやすくなったかもしれません。
さきほど、腹肛板、生殖板、胸板の形状から、
ホコダニ属(Holaspina属)とヤリゲホコダニ属(Parholaspis属)に絞りましたが、
3つの突起を持つのはホコダニ属で、
ヤリゲホコダニ属は中央の突起だけです。
この時点で、今回のトゲダニはホコダニ属(Holaspina属)と同定できたと思います。
種レベルの同定はさらに難易度が高いので、
今回は属レベルに留めておきます。
こちらは分類にはあまり関係がないようですが、
腹面の前方にある叉条突起と呼ばれる突起です。
これは背毛の拡大画像です。
ホコダニ属の背毛は単純な構造です。
ヤリゲホコダニ属(Parholaspis属)は槍状毛、
ヘラゲホコダニ属(Holaspulus属)はヘラ型の背毛を持ちます。
以前の記事のホコダニ科もホコダニ属(Holaspina属)の可能性が高そうですね。
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