フォト
無料ブログはココログ

2018年11月15日 (木)

カマアシムシ:秋田県男鹿半島(2018年8月採取)

1

秋田県の男鹿半島でカマアシムシを採取しました。
カマアシムシは節足動物門 六脚上綱 内顎綱 カマアシムシ目に属しています。
3対の胸脚があるので昆虫に似ていますが、
共通しているのは六脚上綱までで昆虫(昆虫綱)ではありません。
トビムシ目とコムシ目とともに内顎綱を構成します。
内顎綱と昆虫は近縁で、無翅亜綱として昆虫綱に含まれていたときもあります。

2

写真は100倍の画像です。
今回撮影した写真では確認できませんが、
腹部に3対の腹肢(付属肢)があります。
前脚(第1胸脚)を鎌のように折り曲げ、前方に突き出して触角の代わりに使います。
触角はありません。
目もありませんが、頭部背側面に1対の偽眼(感覚器)があります。

カマアシムシは1mm前後の小さな虫なので、
ほとんど目にすることはないと思いますが、
昆虫の系統進化を考える上では面白い虫です。


2018年10月21日 (日)

ヒメハマトビムシ種群(Platorchestia pacifica)の解剖:秋田県2018年8月

「ねこのしっぽ -小さな生物の観察記録-」のヨコエビ画像集
ヒメハマトビムシ(Platorchestia platensis)という種を掲載していますが、
日本産のヒメハマトビムシに対し、
Platorchestia platensisという種名を使うのは不適切のようです。
というのも、そもそもPlatorchestia platensisはアジアには存在しないとのことです。

では、日本産のヒメハマトビムシの種名(学名)は何なのか、
という問題が起きますが、
現状、Platorchestia joiが本命のようです。
ただし、他にもP. pacificaP. parapacificaなどの種も
ヒメハマトビムシとされてきたようなので一筋縄にはいかないようです。
この辺りの研究史はかなり複雑ですが、
H. Ogawa氏のヨコエビがえし、ハマトビムシ入門(9月度活動報告)
詳しくまとめられているのでこちらをご参照ください。

さて、前述したヒメハマトビムシのページは
広義のヒメハマトビムシ種群(Platorchestia spp.)に修正するのが妥当として、
それだけではすっきりしないので、
新たに男鹿半島で採取したヒメハマトビムシを材料に、
日本産土壌動物 分類のための図解検索【第二版】青木淳一編著と
H. Ogawa氏のヨコエビがえし、ハマトビムシ入門(9月度活動報告)を参考に
細かく同定していきたいと思います。

1_im180821__16_x1_25601920_2mm

まず全体像です。
この個体は男鹿半島南岸の鵜ノ崎海岸で採取した個体で、
比較的大型の個体です。

2_im180821__16__x2_25601920_1mm

頭部の画像です。
喉部は平坦です。
この個体は既にヒメハマトビムシ種群と同定しているので、
あまり意味はないですが、
「喉部が緩く突出する」ホソハマトビムシ属(Paciforchestia属)と区別できます。
(日本産土壌動物参照)
ついでに、第1胸脚触角の先端が柄部第5節の中央に達していないことも分かります。
この辺りの形質はオカトビムシ系の分類に必要なようです。

3_im180821__16_1_x40_25601920_500m

第1触角です。
柄部3節、鞭部6節です。
ハマトビムシ科は第1触角が短いことが特徴です。
昆虫もそうですが、陸上生活を行うには2対の触角は邪魔なのかもしれませんね。

4_im180821__16_2_x3_25601920_1mm

第2触角です。
柄部3節、鞭部13または14節です。

5_im180821__16__x40_25601920_200m

分類にあまり必要性がない部位ですが、
顎脚です。

6_im180821__16_11_x40_25601920_500m
第1胸脚です。
特徴的な形態ですね。

7_im180821__16_21_x40_25601920_500m

第2胸脚です。
ここが最大のポイントです。
掌縁部に2個の突出があります。
ニホンヒメハマトビムシ(Platorchestia pachypus)と区別する上で大事な形質です。
といっても、未成熟個体では2個の突出が不明瞭なので安定的な形質ではないかも。
さらに、メインテーマのPlatorchestia joiP. pacificaP. parapacificaについてですが、
第2咬脚前節下縁に剛毛を欠くことからP. joiは除外できます。
(ハマトビムシ入門(9月度活動報告)参照)
狭義のヒメハマトビムシ(P. joi)ではないということです。

8_im180821__16_31_x5_25601920_500m
第3胸脚です。
前節と腕節の長さを見比べます。
前節が腕節よりも明らかに長ければP. joi
ほぼ同じ長さであればP. pacificaP. parapacificaです。
今回は見た目には前節の方が長いように見えるのですが、
実際に計ってみると前節が0.491μm、腕節が0.485μmで、
小数点第3桁を丸めると同じ0.49μmになってしまうので、
ほぼ同長と言って良いのではないでしょうか。
といっても、実際に間違いなくP. joiという個体を比較検討してみないと、
どこまでを同じ、あるいは違うと言ってよいのか
判断できないと思います。
あとは、前節と腕節は太さが違うので目の錯覚も起きそうです。
ちゃんと計らないと難しいですね。

9_im180821__16_42_x5_25601920_500m

第4胸脚です。
あまり必要性のない部位です。
今回気がついたのですが、ハマトビムシは第3胸脚と第4胸脚の長さが異なるのですね。
ヨコエビの多くは第3胸脚と第4胸脚が区別できないほど似ているので、
派生的な形態といえるかもしれません。

10_im180821__16_52_x5_25601920_500m

第5胸脚です。
あまり必要性のない部位です。

11_im180821__16_61_x3_25601920_1mm

第6胸脚です。
第6胸脚自体には見所はないのですが、
基節板はちょっとしたポイントです。

12_im180821__16_6_x40_25601920_200m

こちらは第6胸脚の基節板です。
ヒメハマトビムシ属は第6胸脚の基節板後葉の前下縁が直角、またはここに突起があります。
少々分かりにくいですが写真中央下部の丸い角のことです。
角は丸いですが、前縁と下縁が直角に交わっています。

13_im180821__16_72_x3_25601920_1mm

第7胸脚です。
あまり必要性のない部位です。

14_im180821__16_11_x40_25601920_500

左右の第1腹肢です。
ここ以降、今回の核心の分類学的に深い部分に入ります。

15_im180821__16_21_x40_25601920_500

第2腹肢です。
第2腹脚柄部縁部の剛毛数は9本です。
P. pacificaは3本、P. parapacificaは7本とのことなので、
P. parapacificaにより近いでしょうか。
第2胸脚の形態から除外しましたがP. joiは13本だそう。
きっちり数が合わないのはモヤモヤしますが、
おそらく成長に伴って数が変化するのではないでしょうか?

16_im180821__16_22_x40_25601920_500

もう一本の第2腹肢です。
第2腹脚柄部縁部の剛毛数は9本です。
左右の数は安定しています。

17_im180821__16_31_x40_25601920_500

第3腹肢です。
第3腹脚柄部縁部の剛毛数は10本です。

18_im180821__16_31_x100_25601920__2

第3腹肢にはもう一列の棘があって、
こちらは識別が難しいのですがおそらく6本です。

19_im180821__16_32_x40_25601920_500

もう1本の第3腹肢です。
第3腹脚柄部縁部の剛毛数は11本です。

20_im180821__16_32_x100_25601920_20

もう一列の棘です。
識別が難しいのですが6本です。
したがって、第3腹肢の棘は11本と6本の2列ということになります。
P. pacificaが9本と6本、
P. parapacificaが9本と5本とのことなので、
どちらとも判別できないです。
あえていえば、P. joiの11本と7本が一番近いのですが・・・。

21_im180821__16_1_x40_25601920_500m
気を取り直して第1尾肢です。
今回はあまり重要ではないですが、
オカトビムシ系の分類には必要な部分です。
側端棘の長さを見ます。

22_im180821__16_2_x40_25601920_500m
第2尾肢です。
ホソハマトビムシの種の同定には必要な部分ですが、
今回はあまり重要ではありません。
縁棘の本数を見たりします。

23_im180821__16_3_x40_25601920_200m

第3尾肢です。
オオハマトビムシとホッカイハマトビムシの識別には重要ですが、
今回はあまり重要ではありません。
下縁に棘があるか、ないかを見ます。

24_im180821__16__x40_25601920_200m
さて最後のポイント、尾節板です。
ここの棘の本数をみるのですが、
これはかなり難しいのではないのでは・・・?
この部分を綺麗に取り外すのは難しいですし、
必要倍率も微妙ですよね。

25_im180821__16__x100_25601920_200m

というわけで40倍では難しそうなので100倍で検鏡します。
ただ焦点深度が浅くなるので複数写真を見比べます。
とりあえず棘の本数は7本で間違いないようです。
また、頭部側に2本の棘が隣接して配置されています。
この特徴はP. pacificaに類似しますね。

P. parapacificaは頭部側に3本の棘が隣接して配置され、
合計本数は10本なので大分違いますよね。

ちなみに、P. joiは頭部側に2本の棘が隣接して配置され、
合計本数は8本です。

さて、まとめです。
どの形質を重要視するかによって結論が変わると思うのですが、
第2胸脚の棘の有無はデジタルなので、
これを最優先にしてみます。
すると、P. joiが除外されます。

第3胸脚は判断に迷ったので除外します。
ただ、前節と腕節がほぼ同長とすれば、
第2胸脚の結果と矛盾しません(P. joiが除外されます)。

次に、腹肢の棘の本数ですが、
きっちり合うものがないのでなんとも言えません。
第2腹肢に関してはP. parapacificaが最も近いです。

尾節板に関してはP. pacificaに特徴が一致します。

尾節板と腹肢のどちらを重要視するかで
P. parapacifica or P. pacificaが変化するのですが、
今回は尾節板に軍配を上げたいと思います。

ということで、P. pacificaとして同定します。

2018年10月 7日 (日)

チビヨコエビ科(Amphilochidae)の不明種

ありきたりの表現ですが、暑いですね。
最近はサンプリングにも行かず、ひたすらデータ整理をしています。
さて、今回はデータ整理中のヨコエビの画像です。
Im170503__40_1

Im170503__40_2

このヨコエビはこれまでにも見つけていましたが、
不明種として処理していました。

ヨコエビ_分類群190(260)
http://plankton.image.coocan.jp/Crustacea3-2-1-3-1-260.html

色彩はともかく似たような形態のものを集めたつもりですが、
複数種、場合によっては複数属含まれているかもしれません。
基本的にはチビヨコエビ科(Amphilochidae)に似ています。

昨年のGWに新潟県でこの種を見つけたので、
解剖を行って細かく観察してみました。

Im170503__40_3

まず第1胸脚です。
前節の掌縁が特徴的です。
掌縁と後縁は直角に近い角度です。

ちなみに右の写真は40倍(x4)の対物レンズで撮影した画像。
左は100倍(x10)のレンズで撮影した画像です。
40倍の方が解像度が低いですが、焦点深度が深いですね。
解像度と焦点深度を両立させるのは難しいです。

Im170503__40_4

次に第2胸脚です。
掌縁と後縁は直角よりも鋭角です。
Gitanopsis属に似ているのかなあ、と思っていたのですが、
文献と知識が不足していますし、
ネットで見つかるGitanopsis属の第2胸脚と
何かが違っているし、
チビヨコエビ科の不明種に留めておくのが良さそうですね。

Im170503__40_5

第3胸脚です。
覆卵葉があるのでこの個体は雌ですね。

Im170503__40_6

左が第4胸脚、右が第5胸脚です。

Im170503__40_7

左が第6胸脚、右が第7胸脚です。

Im170503__40_8

尾部です。
第3尾肢が分かりにくいですね。

Im170503__40_9
尾節板です。
漢字の山に似た形状です。
この辺りも特徴なのかもしれません。

ヨコエビは深いですね。
文献がたくさんあるところに行ったら、
あっという間に一日終わりそうです。

2018年9月19日 (水)

男鹿半島サンプリング(2018年8月13日~16日)

8月13日から8月16日にかけて
秋田県男鹿半島周辺に小さな生物の採取に行きました。
神奈川県から秋田県に行くには新幹線、自家用車(高速道路)など、
幾つかのルートがありますが、
今回は自家用車+フェリー(新潟-秋田)を選択しました。

まず8月13日に自家用車で新潟港に向かいました。
環8号線で雷雨に見舞われたり、
先行きが不安になるような天候でしたが、
夜11時くらいには無事にフェリーに乗船。
翌朝6時(8月14日)には秋田港に到着しました。

1_


写真は早朝の秋田港です。
停泊中のフェリーは大きな建物みたいですね。
ここから男鹿半島に向かいました。

まずは男鹿半島南部の鵜ノ崎海岸に向かいました。
鵜ノ崎海岸は「日本の渚百選」に選ばれるほどの美しい海岸で、
鬼の洗濯板と呼ばれる筋状の地層を見ることができます。
男鹿半島はジオパークに選定されるくらい地質的にも面白い場所なのですが、
今回は小さな生物の調査に集中します。

21_

鵜ノ崎海岸の海は透明度が高く、
波もほとんどありませんでした。
少ないですが海藻もあります。

22_

ここでは、ヒメハマトビムシ
P. parapacificaP. joiP. pacificaのどれか、どれもなんだか微妙です・・・)、
ナガタメリタヨコエビ(Melita nagatai)、モズミヨコエビ(Ampithoe valida)、
ニッポンドロソコエビ(Grandidierella japonica)、
ハマトビムシ科のヨコエビ、イソコツブムシ(Gnorimosphaeroma rayi)、
ケフサイソガニ(Hemigrapsus penicillatus)を採取しました。

31_

次に潮瀬岬に行きました。
ここはゴジラ岩という奇岩があることで有名です。
広い範囲に浅いタイドプールができていますが、
海藻はあまりありません。

32_

男鹿半島・大潟ジオパークのページには、
ゴジラ岩は「3,000万年前の火山の噴出物である火山礫凝灰岩」で
できていると書かれていました。
タイドプールのある平坦面は泥岩か凝灰岩でできています。

男鹿半島には25年前、大学3年生のときに、
大巡検という泊まりがけの地質巡検で来ました。
この時に学んだ記憶によれば
日本列島が大陸から分離し、日本海ができるまでの地質が
男鹿半島には残されているのだそうです。
ゴジラ岩を作った火山活動は日本海形成初期か形成前ですね。

33_

写真はケフサイソガニか、タカノケフサイソガニです。
ここではモズミヨコエビ(Ampithoe valida)、
ニッポンドロソコエビ(Grandidierella japonica)、
スジエビモドキ(Palaemon serrifer)を採取しました。

41_

続いて戸賀湾に移動しました。
戸賀湾は単成火山の爆裂火口です。
近くには一ノ目潟、二ノ目潟、三ノ目潟があります。
写真の場所は戸賀湾の南部です。
波が弱いのか、このあたりには海藻があります。

ここではナガタメリタヨコエビ(Melita nagatai)、
ヒゲナガヨコエビの1種(validaではない)を採取しました。

戸賀湾で昼食を頂きました。
サザエの壺焼きと岩ガキが美味しかったです。

51_

続いて男鹿半島の北側に移動しました。
写真は西黒沢海岸です。
ここには大きなタイドプールがありました。

52_

カモメでしょうか?
眼が怖いです。

53_

ヒザラガイです。
代表的な磯の生物ですね。

54__2

こちらはカメノテです。
こう見えて甲殻類です。
三浦半島のものよりも大型です。

http://plankton.image.coocan.jp/Crustacea2-3-030.html

55_

西黒沢は「西黒沢層」と呼ばれる有名な地層の模式地だったと記憶しています。
重要な場所なので25年前の地質巡検でも来ていたはず。
・・・とはいえ、周りを見渡しても当時の記憶はないですね。
崖から落ちてきたのか、葉っぱの化石がありました。
西黒沢層は第三期中期中新世の地層で、
秋田・山形の日本海側の油田地域に分布するので石油資源的に有名ですね。

さて、この場所では通常の昼の採取の他に、
夜間採取も行いました。

昼、夜合わせて下記の生物を採取しました。

カイアシ:
ヒラアシヨコミジンコ属(Syngastes sp.)、
カラヌス目のカイアシ(ポンテラ科と思われる種と不明種)、
ニセボカシソコミジンコ属(Paralteutha sp.)、
ハルパクチクス目の1種

ミオドコパ

アミ:
オカダヨアミ(Siriella okadai)

ヨコエビ:
タテソコエビ科(Stenothoidae)
アゴナガヨコエビ科(Pontogeneiidae)
トゲホホヨコエビ(Paradexamine barnardi)、
フクスケヨコエビ科(Synopiidae)
ドロクダムシ科(Corophiidae)
ゴクゾウヨコエビ(Palinnotus thomsoni japonicus
クチバシソコエビ科(Oedicerotidae )
*ねこのしっぽラボでは初記載です。

モクズヨコエビ科(Hyalidae)
モズミヨコエビ(Ampithoe valida)
不明種1

その他のフクロエビ上目:
クーマ(3種類)、ワレカラ、コツブムシ亜目、
タナイス、

十脚目:
ゾエア、メガロパ、
スジエビモドキ(Palaemon serrifer)、
イワガニ(Pachygrapsus crassipes)、
イソガニ(Hemigrapsus sanguineus)

その他:
有孔虫2種類

ちなみにこの日は男鹿日本海花火でした。
花火にしても、夜間サンプリングにしても
天気が良くて良かったですね。

さて、夜間サンプリングから時間を戻って、
昼の西黒沢サンプリングの後は、
休憩も兼ねて入道岬に行きました。

61_

昼下がりの入道岬はちょっと暑かったですね。
入道岬は北緯40°にあることでも有名です。
写真は北緯40°のモニュメントです。

71_

入道岬のあとは夜間サンプリングまでの時間つぶしということで、
寒風山に行きました。
寒風山は標高355mの小さな成層火山です。
写真は第二火口です。

72_

こちらは第1火口だったと思います・・・。
大きな火口です。
火山地形が良く保存されているので、
てっきり活火山かと思ったのですが、
気象庁のホームページを見ても活火山ではないみたいですね。

73_

寒風山から見下ろした八郎潟です。
多角形の輪郭の湖が見えますが、これが八郎潟。
正確には調整池です。
かつては国内2番目の面積の湖だったということです。
この日の調査はこれで終了。
2日目に続きます。

81_

2日目は八郎潟の河口部からスタートです。
正確には船越水道です。
ここは水門の河口側なので汽水環境です。
潮の満ち引きを確認したわけではないですが
小規模な干潟ができているようです。

82_

水の透明度は良くありません。
長靴で調査を行っていますが、
深いところでは足下が見えなくなります。
深みにはまらないように注意して活動します。
この場所では、下記の甲殻類が見つかりました。
ハマトビムシ科(Talitridae)
マルソコエビ科(Urothoidae)
スジエビ属(Palaemon sp.)

マルソコエビ科を採取できたのは6年ぶりで、
きちんと解剖して付属肢の構造を確認したかったので、
ありがたかったです。

83_

秋田県の沿岸は大小様々な風車が多く、
独特の景観を作っています。
秋田的な光景ですね。

91_

昨日、見ていなかった場所として目潟に行きました。
写真は二ノ目潟です。
遠くに見える戸賀湾と同じく、
目潟も単成火山の爆裂火口(マール)です。
一ノ目潟、二ノ目潟、三ノ目潟まであります。
かつて、一ノ目潟周辺は橄欖岩が採取できる場所として有名でした。
ただ25年前の時点でも取り尽くされたような話を聞いていました。

地下深部、マントルには橄欖岩がたくさんあって、
その部分からマグマが勢いよく上昇してくると
橄欖岩を捕獲して地上まで持ってきます。
そういったものを捕獲岩(ゼノリス)と呼びます。
確か、一ノ目潟では地殻下部由来の花崗岩の捕獲岩も見られたはずですが、
花崗岩はその辺で普通に見られるので、
話題にはならないですね。

ちなみに橄欖岩の主要構成鉱物はカンラン石(olivine)です。
カンラン石の美しい結晶はペリドット、
つまり宝石ですね。

こういった事が理由かどうかは不明ですが、
今は目潟のそばには立ち入れないようです。
なので、目潟は見るだけです。

101_

二ノ目潟を撮影した場所は八望台という展望台で、
ここからは写真のように寒風山を見ることもできます。
この辺りは火山地域なんですね。

111_

再び戸賀湾にやってきました。
場所は戸賀海水浴場です。
ここでは、大きなヒゲナガヨコエビの1種を採取しました。
一応、解剖も行ったのですが、
ニッポンモバヨコエビ(Ampithoe japonica)とも、
モズミヨコエビ(Ampithoe valida)とも違う感じです。
もう少し調べてみましょう。
男鹿半島にはどうやら2種類のヒゲナガヨコエビがいるようですね。
(もっといるかもしれません。)
あとは、
アゴナガヨコエビ科(Pontogeneiidae)
モクズヨコエビ科(Hyalidae)
ハマトビムシ科(Talitridae)
メリタヨコエビ科(Melitidae)
ニホンコツブムシ(Cymodoce japonica
ヘラムシ、
ヒライソガニ(Gaetice depressus)を採取しました。

121_gao

続いてやってきたのは男鹿水族館GAOです。
というか、水族館前の磯の観察に夢中になってしまって、
閉館時間になってしまうという・・・。

131_

宿泊先の秋田市に戻りつつ、
八郎潟の調整池に立ち寄りました。
今でも十分広い湖ですが、
昔はもっと広大だったと思うと不思議な感じです。

さて、これで男鹿半島サンプリングは終了です。
後々、ヨコエビなどの顕微鏡写真を載せていきます。

2018年9月 9日 (日)

生態学が語る東日本大震災 ―自然界に何が起きたのか―

Jpeg



海岸の貝類、多毛類、甲殻類などが東日本大震災によって
どのような影響を受けたのかを解説した本です。
水生生物だけでなく、海岸に生息する植物や昆虫が受けた影響の解説もあります。
海岸県境を干潟、磯、砂浜、砂丘、湿地などに分けて、
個々に議論をしていることも特徴と思います。

この本によって知ったことは、
干潟の生物が津波によって大きな影響を受けた反面、
磯の生物はあまり大きな影響を受けなかったこと。
干潟は津波によって砂や泥ごと生物が流されたり埋められたりしましたが、
磯の生物は波浪に耐えるために強固に固着していたことが
津波の影響が少なかった原因だそうです。

また、地震後の地盤沈下で干潟や磯が干潮時に露出しなくなったことの影響も大きいとのこと。
磯の生物にとって地盤沈下は最も影響が大きな出来事だったそうです。

干潟は津波による撹乱や地盤沈下によって大きな影響を受けました。
しかしながら、どこかに親生物が生き残っていれば、
生物の空白地帯になった場所であっても
幼生の拡散によって速やかに個体数や種数が復元するようでした。
この場合、外来種がいち早く進入することもあるそうですが、
今のところ、そのような事は無さそうでした。

この本を読んで感じたことは、天然の生物は東日本震災の影響から
速やかに自力で復活していることです。
これは松原などのように人為適な環境が壊滅的な被害を受けて
立ち直れないのとは対照的です。
1000年に一度とはいえ、この場所に住む生物の祖先たちは
何度も津波や地震後の地盤沈下の影響を受けてきたはずなので、
比較的スムーズに地震前の状態に復帰するシステムが出来上がっているのかも知れません。
津波を分布域拡大に利用することもあり、
カキなどはカキ礁が壊れたことで分布を広げたそうです。

また、この本の著者たちはある共通のことを懸念しています。
それは、防潮堤の建設などの復興工事によって
再生しつつある生態系が影響を受けるのではないか、ということです。
もちろん、著者たちは防災と復興と環境保全のバランスが大事であることも述べています。
また、本書の最後のほうでは生態系保全を重視した復興工事の実例なども紹介されています。

ねこのしっぽラボは昨年の夏に宮城県の万石浦と牡鹿半島でサンプリングを行いました。
そこで気がついたのですが、真新しい護岸が整備された湾奥の港周辺からは
甲殻類などのベントスがほとんど見つかりませんでした。
夜間のサンプリングでも甲殻類をあまり採取できなかったので、
本当に生物が少ないのだと思います。
反面、古いコンクリートの港や万石浦には豊富な甲殻類相が存在していました。

ただこれは東北沿岸に限ったことではなく、
他の地域でも経験していることです。
たとえば、昨年春の静岡県焼津港での夜間サンプリングでも
甲殻類はまったく採取できませんでした。

現在の東北地方の太平洋岸が特殊なのは
広いエリアで一斉に復興工事が進められていることです。
多くの海洋生物は幼生期をプランクトンとして過ごすので拡散に優れています。
なので、一つのエリアでの生物相が壊滅しても、
他のエリアから幼生が流れつくことで生物相は復活します。
ただ、工事を行うエリアがあまりにも広く、また時期も一致していると、
幼生の供給が追いつかなくなるので生物相の回復に時間がかかるのかも知れません。

とはいえ防災は大事です。
復興工事を批判する気持ちはありません。
環境保全に注力するあまり防災システムに弱点ができたのでは
なんのための復興工事なのかわかりません。
バランスが大事だと、私も思います。
本書でも書かれていますが、
新しく作られた干潟を守るために
防潮堤の位置を数十メートル陸側に移すなどの取り組みに期待しています。
美しく多様性に富んだ生態系と、
防災に強固なシステムの両方を
後世に残したいですね。

生態学が語る東日本大震災 ―自然界に何が起きたのか―
日本生態学会東北地区編 文一総合出版

2018年9月 3日 (月)

このヨコエビの種名を教えてください!


全国のヨコエビ研究者の方のお力をお貸しください!

1_15

昨年のGWに新潟県糸魚川市で採取したヨコエビです。
このヨコエビは2014年に柏崎市、2016年に長岡市で採取していたのですが、
同定できていませんでした。
詳細は下記のページをご覧ください。

http://plankton.image.coocan.jp/Crustacea3-2-1-3-1-370.html
(上のページの中で“第2触角に副鞭”とあるのは、“第1触角に副鞭”の間違いです。)

昨年の新潟サンプリングでも複数個体を採取できたので細かく解剖してみたのですが、
やはり手持ちの文献では該当種が見つからず苦戦しています。

体長5mmくらいの個体が多いですが、
抱卵している個体は1cm程度になります。
小型の個体は淡い緑色ですが、大型の個体は薄い黄緑色に見えることが多いです。
体表面に黒色、または褐色の細かな斑点があります。

2_15_1

こちらは第1触角です。
先端から3節目くらいのところが茶色になっています。
副鞭もあります。
副鞭は3節です。

3_15_2

第2触角です。

4_15_1

第1胸脚です。
底節板が前方に張り出しています。

5_15_2

第2胸脚です。
第1胸脚と第2胸脚は似たような形状、大きさです。

6_15_3

第3胸脚です。
第6節(前節)に 第7節(指節)に近いところに、
3本(4本?)の棘があります。

7_15_4

第4胸脚です。
第3脚と同じく、第6節(前節)に 第7節(指節)に近いところに、
3本の棘があります。

8_15_5

第5胸脚です。
第6節(前節)に6本の棘があります。

9_15_6

第6胸脚です。
第6節(前節)に8本?の棘があります。

10_15_7

やはり第6節(前節)に棘があります。

11_15_

第3尾肢と尾節板です。
第3尾肢は二股に分かれています。
尾節板は単葉です。

ここまでが1個体目の解剖です。
続いて2個体目になります。

12_30

写真では薄い黄色に見えますが、
目視では薄い緑色に見えたような記憶があります。
実体顕微鏡に付けているCCDカメラは色の再現性が不十分なのです・・・。

13_30

頭部の拡大画像です。
複眼は円形です。

14_30_1

第1触角です。1個体目よりも鮮明に写せています。
先端から3節目くらいのところが茶色になっています。
副鞭は3節です。

15_30_2

第2触覚です。
鞭部が柄部よりも短いです。
鞭部は5節くらいでしょうか。

16_30__2

顎脚です。
分類の役に立つことは少ないみたいですが、
一応撮影しておきました。

17_30_

大顎です。
鬚部に焦点を合わせました。

18_30_1

第1胸脚です。

19_30_2

第2胸脚です。

20_30_3

第3胸脚です。
第6節(前節)に 第7節(指節)に近いところに、
3本の棘があります。

21_30_4

第4胸脚です。
形状は第3脚とほぼ同じです。
第6節(前節)に 第7節(指節)に近いところに、
3本の棘があります。

22_30_5

第5胸脚です。
第6節(前節)に6本の棘があります。

23_30_6

第6胸脚です。
第6節(前節)に5本の棘があります。

24_30_7

第7胸脚です。
第6節(前節)に5本(6本?)の棘があります。

25_30_

尾肢と尾節板です。
一個体目よりも尾節板の形がわかりやすいです。

26_30_3
第3尾肢です。
今回解剖した中では最も小さなパーツです。

ここまでが2個体目の解剖です。
続いて3個体目になります。

27_25_
28_25_
29_25_

全体像です。
この個体は尾肢の解剖に失敗したのですが、
胸脚の写りが良いので掲載します。

30_25_1

第1触角です。
先端から3節目くらいのところが茶色になっています。
副鞭は3節です。

31_25_2

第2触覚です。
鞭部が柄部よりも短いです。
鞭部は6節でしょうか。

32_25_1

第1胸脚です。

33_25_2

第2胸脚です。

34_25_3

第3胸脚です。
第6節(前節)に 第7節(指節)に近いところに、
3本の棘があります。

35_25_4

第3胸脚です。
第6節(前節)に 第7節(指節)に近いところに、
3本の棘があります。

36_25_5

第5胸脚です。
第6節(前節)に5本(6本?)の棘があります。

37_25_6

第6胸脚です。
第6節(前節)に6本の棘があります。

38_25_7

第7胸脚です。
第6節(前節)に5本の棘があります。

以上が解剖の結果になります。
この情報だけで種名が分かると良いのですが・・。
種名を知りたい理由ですが、ねこのしっぽラボで現在制作中の
ヨコエビの画像集をヨコエビの図鑑に格上げするために
できるだけ分類不明種を少なくしたい、というのが理由です。

学会や何らかの発表に使いたいというのではないので、
断片的な情報でもかまいません。
情報お待ちしています。

2018年8月25日 (土)

石灰質ナノ化石(石灰質ナンノ化石)の偏光顕微鏡写真

1im180602___calcidiscus_17


この画像、なんでしょう?
実は生物の化石です。
円石藻類という単細胞藻類の化石なのですが、
これが細胞本体なのではなく、
細胞を取り囲むように形成される鱗片の化石です。
石灰質(炭酸カルシウム)でできているので、
石灰質ナノ化石(石灰質ナンノ化石)と呼ばれます。
コッコリスまたはココリス(coccolith)とも呼ばれます。

さて、右側の写真は普通の光学顕微鏡写真に見えますが、
(それにしては対象物が小さいので分解能的にギリギリの画像ですが)
左側は背景は暗いし、換気扇みたいな感じに見えるし変ですよね?
実はこれは、同じ石灰質ナノ化石を偏光顕微鏡で見た写真です。
石灰質ナノ化石のように
放射状に結晶が配列した物体を偏光顕微鏡で観察すると
十字型に暗い部分が現れます。
石灰質ナノ化石だけでなく、
放射状の構造を持つ鉱物(球晶)もこんな風に見えます。

ねこのしっぽラボは本格的な偏光顕微鏡を持っていないのですが、
東急ハンズで数百円で買った偏光フィルムを
コンデンサーの上と、対物レンズの上に載せたら、
1000倍でも偏光画像が見えました。
なんと安上がりな!!

さて、画像の種はCalcidiscus sp.と思われます。
円石藻の化石を用いた年代決定には種レベルの同定が必要ですが、
今回は分解能が不足しているので属レベルの同定にとどめておきます。
採取地は千葉県勝浦市、6.4-3.5Ma(Maは百万年前の意味です)の年代の試料から見つけました。
年代は珪藻層序から求めています。

2im180623__calcidiscus_23

上の写真もCalcidiscus sp.と思われます。
ただし最初の写真の種とは別種です。
こちらの種は左側の偏光顕微鏡(クロスニコル)が暗く見えます。
採取地は千葉県旭市、2.4-2.2Ma(Maは百万年前の意味です)の年代の試料から見つけました。

3im180623__calcidiscus_25__2

こちらもCalcidiscus sp.と思われます。
生物顕微鏡の画像(実際には上側の偏光板が入っている状態です)で
放射状、または渦巻き状の構造が見えます。
この構造は炭酸カルシウムの結晶が規則的に配列して出来ているのですが、
もっとよく観察するには電子顕微鏡が必要ですね。
採取地は千葉県旭市、2.4-2.2Ma(Maは百万年前の意味です)の年代の試料から見つけました。
もしかしたら2番目の種と同種かもしれないです。

4im180526__reticulofenestra_4_

この種はReticulofenestra sp.と思われます。
ただ、私の知識は20年前のものなので同定が怪しいかも、です。
偏光顕微鏡の画像は扇風機とか換気扇に似ています。
もっとも分かりやすいナノ化石です。
Calcidiscusと違ってココリスの輪郭が楕円形です。
採取地は神奈川県横須賀市、6.4-3.5Ma(Maは百万年前の意味です)の年代の試料から見つけました。

51im180623__reticulofenestra_21_

ココリスは細胞を取り囲むように形成される鱗片の化石と書きましたが、
希に生きている状態のままで化石になることもあります。
上の写真を見ると、ココリスが球形の殻条に配列していることがわかります。
これが本来の円石藻類の形態です。
おそらくReticulofenestra sp.です。
採取地は千葉県旭市、2.4-2.2Ma(Maは百万年前の意味です)の年代の試料から見つけました。
下記のページに生きている状態の円石藻類の写真があるので参考にしてください。

http://plankton.image.coocan.jp/algae4-3.htm

52im180623__reticulofenestra_21_


こちらは偏光顕微鏡で見た画像です。
色彩は派手ですが、ちょっと分かりにくいですね。

6im180623__coccolithus_30_

こちらはCoccolithus sp.です。
Coccolithus pelagicusかもしれません。
ココリスとしては大型なので構造がわかりやすいです。
私見ですが、10μm以上の大きさのココリスは大型と言っていいと思います。
外側に放射状の構造があって、内側に不規則な構造があります。
採取地は千葉県旭市、2.4-2.2Ma(Maは百万年前の意味です)の年代の試料から見つけました。

7im180616__coccolithus_2

こちらもCoccolithus sp.です。
Coccolithus pelagicusかもしれません。
中央部に細長い穴があります。
採取地は千葉県南房総市、6.4-3.5Ma(Maは百万年前の意味です)の年代の試料から見つけました。

8im180616__helicosphaera_18_

こちらは巻き貝のような変な形をしていますが、
こんな形のココリスもあります。
Helicosphaera sp.です。
ナノ化石を見慣れた人でないと見逃してしまうかもしれません。
採取地は神奈川県三浦市、中期中新世~後期中新世の年代の試料から見つけました。

9im180526__spenolithus_21

こちらも非常に分かりにくいナノ化石です。
というよりも小さいです。
生物顕微鏡ではゴミにしか見えませんが、
偏光顕微鏡で見ると特徴的な形状が見えるのでナノ化石とわかります。
Spenolithus sp.です。
採取地は神奈川県横須賀市、6.4-3.5Ma(Maは百万年前の意味です)の年代の試料から見つけました。

10im180616__discoaster_5_

こんな形の石灰質ナノ化石もあります。
Discoaster sp.です。
絶滅したグループであり、
しかも細胞の形を保存した化石が見つかっていないので
円石藻であるかも怪しいと聞いたことがあります。
ただ、地質年代ごとに形状が変化していくので示準化石としては有用だそうです。
第三紀の示準化石です。
採取地は千葉県南房総市、6.4-3.5Ma(Maは百万年前の意味です)の年代の試料から見つけました。

11im180616__discoaster_20

こちらもDiscoaster sp.です。
雪の結晶みたいですね。
採取地は神奈川県三浦市、中期中新世~後期中新世の年代の試料から見つけました。

ナノ化石は専門家でないと種レベルの同定が難しいですが、
写真を撮るだけならなんとかなるので、
徐々にデータを蓄えたいと思います。

2018年8月12日 (日)

昔話:Shionodiscus biporusと博士論文


11_im180707_dsdp580162_8384cm_shi_2


何の変哲もない珪藻ですが、
私にとっては思い入れのある種です。
博士課程の学生だった頃に新種記載した化石珪藻で
Shionodiscus biporus (Shiono) Alverson, Kang et Theriotという学名です。
当時はThalassiosira bipora Shionoという名前でした。
深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm)から見つけました。

Thalassiosira trifultaという珪藻の分類に混乱があるかもしれない”
という当時の担当教官のカンにより始まった研究でした。
実際に何がどうということも分からなかったので、
とりあえず光学顕微鏡とSEM(走査型電子顕微鏡)で
色々な年代の試料(深海掘削試料)を観察していきました。
すると、ある試料において光学顕微鏡ではThalassiosira trifultaが見つかるのに、
SEMでは見つからないという壁にあたりました。

Thalassiosira trifultaは殻の中央部に数個の小さな穴が並んでいて、
SEMで細胞の内側方向から観察すると、
その穴は有基突起という1μmよりも小さな構造に繋がっています。
この有基突起と殻の接合部に3個の微細孔があり、
さらに有基突起自体にも3本の支持構造があることが
Thalassiosira trifultaの特徴です。
なお、有基突起を学名でfultoportulaと呼ぶのですが、
3個の(tri)支持構造を持つfultoportula(fulta)というのが
trifultaの学名の由来です。

ちょっと話がそれましたが、Thalassiosira trifultaに特徴的な
3個の穴と3個の支持構造を持つ有基突起が見つからない、
ということが博士論文の最初の壁でした。

逆に変な珪藻も見つかっていました。
その珪藻は4個の微細孔に囲まれた有基突起を1個だけ持っているのですが、
そのとなりに変なスペースがあり、
そこに暗い影がありました。

そして深夜の電子顕微鏡室で何かの拍子にふと思ったのです。
“光学顕微鏡で見つかるThalassiosira trifultaと、
SEMで見つかる【変な珪藻】は同じものなのではないか”
もちろん、Thalassiosira trifultaは間違いなく存在しますので、
この【変な珪藻】は光学顕微鏡ではThalassiosira trifultaに酷似している
別の珪藻ということになります。

ただ、それにしては光学顕微鏡とSEM観察で穴=有基突起の数が異なります。
光学顕微鏡で【変な珪藻】を観察すると必ず2個の穴が見つかるのですが、
SEM見つかる有基突起の数は1個です。
この矛盾を突破する鍵が有基突起の隣にある変な暗い影でした、
暗い影は内部に空洞があることを示しています。
つまり、【変な珪藻】は2個の穴を持っているが、
その内の1個だけが有基突起に繋がっていて、
もう1個の穴は塞がれている、というアイデアが浮かびました、

このことは後々、色々な方法で証明したのですが、
このような特徴の珪藻が存在しなかったので、
新種記載することになりました。
話が長くなりましたが、
これがThalassiosira biporaです。
biporaという学名は2個(bi)の穴(pora)に由来します。
学名はラテン語なので英語とはちょっとスペルが違います。

12_im180707_dsdp580162_8384cm_shion

これはShionodiscus biporus(= Thalassiosira bipora)の殻の中央部を拡大した画像です。
中央部に2個の穴がありますが、
右側【F】が有基突起で、左側【O】が塞がっている穴(occluded areola)です。
この2個の穴の違いは慣れると光学顕微鏡でも識別できます。
さらに、少し離れたところに唇状突起【R】という別の構造があるのですが、
必ず唇状突起【R】→塞がっている穴(occluded areola)【O】→有基突起【F】という順番に並びます。

さて、Thalassiosira biporaを新種記載できたことで
一気に研究は加速しました。
(以下の文章はややこしいので流し読みしてください)
Thalassiosira biporaに似た種を複数記載していたのですが、
その中に、本来塞がっているoccluded areolaに小さな穴が開いている種が見つかりました。
さらに時代が古くなると、この穴が大きくなることも分かりました。
このことは起源種から【小さな穴が開いているoccluded areolaを持つ種】を経て、
Thalassiosira biporaが進化したことを示しています。

ではThalassiosira trifultaはどうなったかというと、
T. biporaの全盛期(500万年間~350万年間)にはT. trifultaは誕生していないことがわかりました。
実はT. trifultaは中新世と鮮新世の境界を決める年代指標種のひとつだったですが、
中新世と鮮新世の境界頃にはT. trifultaは生まれておらず、
そこには生まれたてのT. biporaがいたのです。
T. trifultaT. biporaが混同されていたので当然のことです。
つまり担当教官のカンは当たりました。
ただ、起源種は一緒なので遠い昔に分かれた親戚の間柄であることも分かりました。
起源種とT. trifultaの中間の特徴を持つ種(T. praeoestrupii)も存在していました。
起源種もたった一つの種であることもわかり、鮮新世初期の百万年ほどの間(570万年間~480万年間)に、
爆発的に種数を増やしていたこともわかりました。

博士論文ではT. biporaT. trifultaの仲間たちが起源種からどのように進化したのかを議論しました。
このグループの種にとって条件の良いときに変異が大きくなり、
条件が厳しくなったときに変異とのところどころが断絶して多数の種が生まれる、
というイメージです。
実際の博士論文では、別の珪藻グループの進化過程との比較も行いました。
論文も複数かけたので、割とすんなり博士論文は通りました。

ところが、就職が難航しました。
あまりにも古典的で地味な基礎研究だったので、
他の研究への波及効果もなく、
流行の研究対象でもなく、
当時進み始めたIODPにも絡むことができす、
この研究を武器に就職はできませんでした。
結局は別分野の研究テーマでポスドクになり、
一般企業に就職することになりました。
当時は、珪藻の進化の研究なんて何の役にも立たないと言われて落ち込むこともありましたが、
今となっては、この研究ができて良かった、と思います。
財政事情もありますから、将来的に発展や経済効果が見込めるような研究でないと
予算獲得は難しいでしょう。
そのような中で地味な基礎研究に没頭できたことは幸せなことです。

この話には後日談があります。
日本では評判の良くなかった研究ですが、
海外ではそれなりに評価されたようでした。
というのも海外の研究者によってThalassiosira属から
T. biporaT. trifultaの仲間たちが分離されたときに、
新しい属名に私の苗字が使われました。
私が珪藻研究の世界からある日突然消えたので、
もしかしたら“Shionoが死んだ”、と思って謹呈したのかも知れないです。

折角なのでShionodiscus biporusのほかの写真も載せておきます。
最初の写真と同じく、昔の深海掘削計画(DSDP580-16-2_83-84cm)の試料です。
写真をいっぱい並べて共通の特徴を抽出するのが私の研究スタイルでした。

2im180707_dsdp580162_8384cm_shionod

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm) 
① 直径:28.5μm
② 胞紋密度
    中心域:6/10μm、周辺域:14/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:3、長さ:6.4μm
中心域の2個の細孔構造のうち、右側は有基突起、
左はoccluded areola。

3im180707_dsdp580162_8384cm_shionod

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm) 
① 直径:45μm
② 胞紋密度
    中心域:5/10μm、周辺域:10~12/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:4、長さ:4.4μm
中心域の2個の細孔構造のうち、右側は有基突起、
左はoccluded areola。
中心域の左側に唇状突起がある。

4im180707_dsdp580162_8384cm_shionod

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm) 
① 直径:40μm
② 胞紋密度
    中心域:5~6/10μm、周辺域:12/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:3、長さ:6.3μm
中心域の2個の細孔構造のうち、左側は有基突起、
右はoccluded areola。
中心域の右側に唇状突起がある。

5im180707_dsdp580162_8384cm_shionod

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :深海底掘削コア試料(DSDP580-16-2_83-84cm) 
① 直径:46.3μm
② 胞紋密度
    中心域:5~6/10μm、周辺域:12/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:6、長さ:14μm
中心域の2個の細孔構造のうち、左側は有基突起、
右はoccluded areola。
中心域の右側に唇状突起がある。

こちらは陸上の露頭(崖)で採取したShionodiscus biporusです。

6im180624__shionodiscus1_x1k_2560_2

分類   :Shionodiscus biporus
       (Shiono) Alverson, Kang et Theriot 
倍率  :1000倍 
採取  :鮮新統 名洗層(千葉県) 
① 直径:30μm
② 胞紋密度
    中心域:5~6/10μm、周辺域:12~13/10μm
③ 有基突起と唇状突起の距離
    胞紋数:3、長さ:6.8μm
典型的なShionodiscus biporus
中心域の2個の細孔構造のうち、右下側は有基突起、
左上側はoccluded areola。
中心域から少し左上側に離れたところに唇状突起がある。

2018年8月 3日 (金)

タカノケフサイソガニ(Hemigrapsus takanoi):多摩川河口干潟 2017年11月採取

Im171125__1_x067_2560x1920

去年11月に多摩川河口の干潟で採取した
タカノケフサイソガニ(Hemigrapsus takanoi)です。
どこにでもいる珍しくないカニ(駄ガニ)です。

実体顕微鏡で複数枚撮影してつなぎ合わせた画像です。
多分、20枚くらい重ねています。
つなぎ合わの精度を良くするために、
視野の9割程度をオーバーラップさせるという
非常に手間のかかる方法で撮影しています。

この方法は仕上がりは綺麗なのですが、
効率が悪すぎるので
今後はOLYMPUS Tough TG-5に移行する予定です。

Im171125__1_x067_2560x1920_2

腹面を観察した画像です。
腹部が狭いので雄の個体ですね。
口の周りに黒点がありますが、
腹部にはありません。
これはタカノケフサイソガニの特徴です。

タカノケフサイソガニは近縁種のケフサイソガニ(Hemigrapsus penicillatus )と
よく似ていますが、
「海辺のエビ・ヤドカリ・カニ・ハンドブック」によれば
ケフサイソガニは腹部にも黒点があるので識別できるそうです。

タカノケフサイソガニは十数年前に
ケフサイソガニから分離された非常に新しい『新種』です。
近年になるまでタカノケフサイソガニとケフサイソガニは混同されてきたということなので、
それだけ良く似ている種ということなのでしょう。

Im171125__1_x1_2560x1920_3

こちらはハサミの拡大画像です。
ハサミの外面の毛の房が特徴的です。
モクズガニと似ていますね。
(タカノケフサイソガニはモクズガニ科に属しています)

ハサミの外側にも黒点があり、
タカノケフサイソガニの黒点はケフサイソガニの黒点よりも小さいということですが、
これは同じくらいの大きさの個体を並べてみないと識別が難しいかもしれません。

2018年7月17日 (火)

トゲダニ亜目 ホコダニ科 ヘラゲホコダニ属(Holaspulus属) 茨城県2018年1月

少し前のデータになりますが正月に採取したトゲダニの同定記録です。


_01
_02

3月に書いたホコダニ属(Holaspina属) に似ていますが、
ホコダニ属よりも背毛が太いように見えます。
少し拡大しましょう。

_03
_04

背中には背板と呼ばれる硬い殻があります。
背板の最前方にある毛がj1で、
その斜め下にある毛がz1です。

ホコダニ科にはz1を欠くものがいるので、
最初の同定に役に立ちます。
カマゲホコダニ属(Gamasholaspis属)、ホコダニモドキ属(Euparholaspulus属)、
はz1を欠くとされています(日本産土壌動物)。

ヘラゲホコダニ属(Holaspulus属)、コシビロホコダニ属(Naparholaspis属)、
ダルマホコダニ属(Proparholaspulus属)、ホコダニ属(Holaspina属)、
ヤリゲホコダニ属(Parholaspis属)
はj1とz1を持ちます。
写真の種はz1がないので、カマゲホコダニ属か、ホコダニモドキ属ということになります。

ただ、注意したいのが日本ダニ類図鑑や日本産土壌動物のイラストを見てみると
ヘラゲホコダニのz1は非常に短いようです。
なので、今回の種がヘラゲホコダニ属であった場合、
z1の存在に気がついていない可能性があります。

次に腹面から観察した画像です。

_05
_06
_07

腹肛板が生殖版と周気管板と融合しています。
この特徴はヘラゲホコダニ属またはコシビロホコダニ属に似ています。
ヘラゲホコダニ属とコシビロホコダニ属は鋏角固定背毛の形状が異なります。
ですので、次は鋏角の観察です。

_08
_09

固定指背毛は毛束の反対側にあります。
毛束があるほうのハサミが動指、反対側が固定指です。
この倍率では観察が難しいので、もう少し拡大してみます。

_10


固定指背毛はやや曲がっていますが単純な形であることが分かります。
コシビロホコダニ属の固定背毛は楔型で変わった形なので、
コシビロホコダニ属の可能性は無さそうです。

_11
_12


念のために他の個体の鋏角も観察してみます。
こちらのほうが固定指背毛が観察しやすいです。
矢印の先の固定脂背毛は少し曲がった単純毛です。
ここまで来れば、この種はヘラゲホコダニ属と考えて良いでしょう・・・ふう。

_13


こちらは何の部分か分かりにくいですが顎体突起です。
ホコダニのなかまは顎体突起にも特徴が出るのですが、
ヘラゲホコダニ属はあまり特徴がありません。
ギザギザしていて、中央に長い突起がないことが特徴です。

_14

こちらは気門です。
周気管の後端部はまっすぐで湾曲しません。
ハエダニ科は周気管の後端部が湾曲しているので、
この部分を見ればハエダニ科とホコダニ科を識別できます。

_15

後胸板です。
ここも見ておいたほうが良い部分です。

_16


最後に背毛の拡大画像です。
確かにヘラのような形です。
ヘラ毛ホコダニですね。

«カニとガタガール ~OLYMPUS Tough TG-5テスト撮影レポート~